マガジンのカバー画像

野次猫コラム

88
頭の中の整理用。気の赴くまま徒然に書いています。
運営しているクリエイター

#映画

虚構と現実のシェアードユニバース 映画『ラストマイル』評

映画『ラストマイル』を観ました。塚原あゆ子監督、野木亜紀子脚本、新井順子プロデューサーという黄金タッグは、『アンナチュラル』『MIU404』とテレビドラマでヒットを飛ばしてきました。今回の映画は、巨大ECサイトの裏側の流通網が舞台であり、満島ひかりさん演じるエレナと岡田将生さん演じるコウという主人公に、『MIU404』『アンナチュラル』の登場人物たちが絡む“シェアードユニバース”作品として話題になっています。 あなたも私も加担している、ラストマイルの問題今回の映画のモデルと

海外から逆輸入される水俣病

映画『MINAMATA』を観ました。水俣市は一昨年に訪問しており、日本初の環境モデル都市としての取組みに感銘を受けるとともにその凄惨な歴史に息を呑みました。 水俣病は教科書にも載っており、必ず学ぶ公害の代表例として知られています。そのくわしい状況については、是非とも現地に足を運んでいただきたいと思います。それとともに我々が現在進行系で胸に手を当てて考えなければいけないのは、風評被害についてです。 水俣病から東日本大震災、コロナ禍へ実際、水俣病は接触や空気感染するリスクはな

女性同士を分断させようとする社会

『あのこは貴族』という、東京のハイソサエティと地方出身の2人の女性の暮らしぶりのコントラストを描いた作品。といった説明だと、この2人がぶつかって物語が展開していくような印象を持つでしょう。そう、この「東京と地方」「金持ちと貧乏」といった分かりやすい二項対立こそが、日本社会においては曲者なのです。 狭い価値観に縛られる上流階級と地域コミュニティ分かりやすさであったり、説明のしやすさというのは既存のレールに乗せられやすいです。本当はハイコンテストな、階級やコミュニティ毎の文脈が

昭和の“化石”をどう処理するのか、『罪の声』が問いかける

映画『罪の声』を観ました。小栗旬さん・星野源さんのダブル主演で、野木亜紀子さん脚本ということで楽しみにしていました。以下、ネタバレなしで感想を記します。 グリコ・森永事件という闇この映画は1984年に発生したグリコ・森永事件をモチーフにしており、35年経って時効を迎えたこの事件の真相に対して小栗旬さん演じる新聞記者と、事件に声を使われた子どもだった星野源さん演じるテーラーが別々にアプローチしていきます。 1984年当時は私も小学生で、連日キツネ目の男などが報道されていたこ

糸〜菅田将暉と二階堂ふみの無駄遣い

映画『糸』を観ました。菅田将暉さんと小松菜奈さんのダブル主演が話題で、中島みゆきさんの名曲にインスパイアされた物語です。 なかなか本音を表に出さない小松菜奈「縦の糸はあなた、横の糸は私。」高橋漣と園田葵というそれぞれの人生の糸が離れ、時を経て再び結び付く様は平成という時代の出来事とリンクしています。テロ、不況、震災、格差、、様々な暗い影が忍び寄る社会において、小さな幸せを守るのがいかに難しいかが表現されています。 とくに北海道から東京、沖縄、そしてシンガポールへと舞台を移

過去は未来によって変えられる

映画『マチネの終わりに』を観ました。福山雅治さん、石田ゆり子さん、ついでに伊勢谷友介と好きな俳優(みんな動物好き)が揃って出演していたのでなんとなく選んだのですが、最近考えていたこととマッチしたので良かったです。 あの日あの時あの場所で君に会った映画の内容としては、大人の男女が出会い、様々な事件や事情に巻き込まれ紆余曲折あってすれ違い、それぞれの人生を歩んでいくといったストーリーなのですが、パリやニューヨーク、そして東京といった街並みで美男美女が映えて美しい映像となっていま

『天気の子』と温暖化型豪雨

2019年夏公開の映画『天気の子』を早速観てきました。『君の名は。』以来3年ぶりの新海誠監督作品として、期待を集めています。このコラムでは、ネタバレなしでこの『天気の子』のアイディアのもととなった気候変動について、考えていきます。 東京都心で19日連続3時間以下の日照時間この夏は6月末から7月中旬までほとんど日照がない状況で、記録的な梅雨寒の天気が続いている昨今、晴れ間がほしいと感じるのは人間の本能でしょう。実際に太陽光を浴びなければ睡眠ホルモンであるセロトニンが正常に分泌