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人がいないなら、動物を活かせば良いんじゃない?『限界集落の経営学』

地方創生⇒デジタル田園都市構想と、看板が完全にかけ代わってしまった感のある昨今、地方ではバス路線が減少し宿泊施設が軒並みコロナ後の需要増に耐え切れず、飲食店は原材料高騰によって閉店が相次いでいます。もはや人材という最大の希少資源が失われている状況では、地方の存続すら危ぶまれていると言えます。

私自身もかつて限界集落と呼ばれる地域で活動したことがありますが、十数年経ってかなり様相が変わってきていると感じます。つまり、生き残る地域と衰退して消滅に向かう地域の二極化が進み、残酷なまでの格差がすでに広がっている現実です。そして地方創生という議論は、活性化か消滅かという二項対立に終始してそこで思考停止している感が否めません。

地域を存続させる第三の道=粗放生産

消滅可能性自治体という言葉がマスコミを中心に喧伝され、危機感ばかり煽るアジテーションが閉塞感とともに各地方を支配しています。相変わらずこの危機感を利用して、国の予算を引っ張ってきて何とか会議やら移住イベントやらを開催するコンサルが跋扈していますが、そんな周回遅れの議論をよそにちゃっかりと生き残りを図りつつある限界集落は確かに存在します。

筆者は地域おこし協力隊に先行するモデルとなる地域マネージャー制度によって全国各地に住み込みで活性化施策を徒手空拳で行なってきた経験を元に、イノベーション≒瓢箪から駒を生み出す手法を博士論文としてまとめた実務家研究者です。そして限界集落を存続させる手段を粗放生産に求め、『限界集落の経営学』という何とも矛盾をはらむタイトルで刊行しました。

激変するグローバル環境にマッチした粗放生産

この本では、畜産とくに牛肉生産の国内回帰と飼料自給率向上をベースに、限界集落で和牛を飼養しながら粗放生産する手法について研究しています。日本の食料自給率にこの畜産分野の飼料自給率が低いことがインパクトを与えており、昨今のインフレや資源価格高騰下で輸入飼料価格も上昇トレンドにあります。

このグローバルなサプライチェーンは米中対立にも大きな影響を及ぼしており、とくに人口増加によって畜肉消費が高まっている中国にとって、アメリカからの飼料穀物輸入は生命線と考えられます。そして日本にとっても同様であり、不安定化する国際情勢に対してこの飼料穀物の自給率を高めることは安全保障という国益に適います。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング『地政学リスクの全体像の整理』より抜粋

例えば限界集落の棚田など条件不利な地勢で、飼料米やソルガム・デントコーンのような生産性の高い飼料用穀物を粗放生産することは、景観維持と地域ビジネスの基礎的な収入源になり得ます。私自身も棚田で野焼きをしながら耕作放棄地再生に携わった経験がありますが、この縄文的な体験価値をコンテンツとしつつ都市農村交流を仕掛けるといった可能性は十分あります。

SDGsに資するアニマルウェルフェア

さらに、牛や豚・鶏といった畜産動物を狭い場所で飼養することは、家畜伝染病予防という衛生基準やアニマルウェルフェアという倫理基準の両面から規制強化されてきており、十分な広さの放牧場所確保や自由に草を食むゲージフリーな飼養モデルは粗放生産と相性が良いでしょう。

とくにSDGs関連情報開示を義務付けられる東証プライム上場企業を中心に、サプライチェーンでの対応の具体策として需要は高まってきています。畜肉生産における家畜の痛みや苦しみの低減、乳牛飼養の全自動化など、この分野でのイノベーションが興りつつあり生き物たちの尊厳を守りながら地域を維持させることは可能でしょう。

避けては通れない野生動物との闘い

このような粗放生産を限界集落で実践する上では、シカやイノシシ、さらにクマのような野生動物にどのように対処するかが鍵でしょう。飼料作物が植えてあればそこに誘引されてくるのは確実であり、獣害対策は収益向上に直結します。

例えば牛を山際に放牧するとイノシシの侵入が減るといった事例もあり、集落における耕作地と対策地のゾーニングを見直すような全体最適施策を考慮していく必要がありそうです。また訓練された追い払い犬を定期的に山に放つといった対策も有効であり、保護犬のような別のアニマルウェルフェア施策を組み合わせると効果的でしょう。

補助金ではイノベーションは生まれない

この動物たちを活かした粗放生産がどれくらい収益性を生むかは未知数です。しかし、従来の生産性一辺倒でのやり方が曲がり角を迎えているのも事実でしょう。必要なのは各地域に即した手法の開発であり、トライ&エラーを許容しながらリスクマネーが流入するスタートアップ的な多様性です。

予算ありき計画ありきの補助金施策とは相容れない構造をいかにつくるか、前述したような東証プライム企業がCVC的なリスクマネーを持ち寄ってファンド組成し、限界集落にこそ実証実験の場があると若者たちに期待させる世の中にしていく流れを生み出していければ良いですね。

そしてその裏側には、集落側の長老組織の合意形成を図りつつ権利関係を集約再分配するような実務能力も求められるわけで、地域おこし協力隊のような公的支援制度もよりアップデートが求められると言えます。いずれにしても、消滅可能性自治体みたいな思考停止に右往左往しているヒマはないのです。

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