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“あなた”は人間と微生物でできている

盲腸という内臓器官をご存じでしょうか。虫垂炎になると、以前は盲腸切除してしまう治療が多かったのですが、実はとても重要な役割を持っていたとして現在では盲腸切除は推奨されていません。その盲腸の役割とは、腸内細菌叢つまり善玉菌の棲み処として消化や人体の様々な機能を援ける働きを持っています。

腸内細菌は、最近ではヤクルト1000などで注目されていますが、睡眠やストレスといった自律神経系の制御や、新型コロナウィルス等の疾病を防ぐ免疫力を高める作用があります。とくに大腸には樹状細胞と呼ばれる、様々な外敵(抗原)を取り込んでその情報を分析して対抗策を各器官に指示する働きがあり、そこに住む常在の善玉菌の多様性こそが免疫力の正体です。

人間の性格を決める微生物の働き

人間の大腸など内臓にはこのような微生物と共生する場所があり、実はその微生物こそが人間の性格や気分などを変えているとしたら驚くでしょうか。この微生物の集合体をマイクロバイオームと呼び、人体の細胞数と同じくらい約40兆もの数が様々な情報をやり取りしています。当然、栄養や遺伝子といった部分まで共通していくわけですから、人間側にも影響を及ぼします。

たとえば糖質多めの食事を摂ると、さらに甘いものが欲しくなったり止められなくなってしまう経験は誰しもあるでしょう。実は糖分は微生物にとって繁殖(分裂)に必要な栄養源であり、20分という期間の生涯でどんどん増えていくためにより要求が強くなるのです。なのでダイエットで糖質制限をしたり、16時間断食のような健康法を実践すると性格まで変わってきます。

人間の体内と植物の根の不思議な相似

このような微生物との共生は、人間だけが持つ性質ではありません。動物、さらには植物も微生物の能力を活かしてその生態を維持しています。どこに微生物を棲まわせているかといえば、根っこであり土壌微生物という存在と共生することで様々な栄養素やミネラルを吸収しているのです。

枯れた植物や死んだ動物が、土の中でいつの間にか分解されるのも、土壌微生物の働きによるものです。動植物の有機体を酸や物理的な動きで分解し、他の微生物や植物に吸収可能なイオンの形にして資源循環させているのが実は土壌微生物であり、私たちが農業で利用しているのも腐植と呼ばれる微生物たちの死骸が積み重なったフカフカな層です。

微生物たちを殺してきた農薬と抗生物質

このように人間の体内や土壌で微生物が働き役立っていると、研究によって分かってきたのはごく最近です。それ以前はもっと化学的に特定の物質や薬品を症状や被害に対して処方することで対応してきました。それが農薬であり抗生物質であり、悪性の対象に直接攻撃できる手段でした。

有名な抗生物質であるペニシリンやストレプトマイシンは、土壌に存在するカビなどの微生物から発見され、結核やポリオ等の死に至る伝染病を撲滅させました。一方でこの抗生物質を多用すると、これに耐性を持つ進化を遂げた菌が出てくることも明らかになっています。

またこれら農薬や抗生物質は、共生関係にある善玉菌をも殺してしまい、結果として人間や植物の抵抗力を下げてしまう結果になります。冒頭に紹介した盲腸についても、胃酸で溶かされる過酷な環境である胃から微生物を退避させ、下痢などの急性な症状からいち早く共生環境を回復させる機能を担っているのです。

急性から慢性へと考えを変える医療と農業

このように微生物との共生関係こそが重要であるという考えの下に、いかに体内や土壌の環境を維持していくかが、今後の医療や農業のポイントになってきます。たとえば手術や投薬といった急性疾患に対する治療法はもちろんこれまで研究されてきましたが、それとともに人間が本来持つ自然治癒力を高め、微生物の働きによって悪性の疾患を抑えるような研究テーマも出てきています。記憶に新しいワクチンもその1つですね。

とくに新型コロナウィルス対策では手洗いや除菌が推奨されてきましたが、それによって常在の善玉菌も駆除してしまっていた可能性があります。そしてそのような無菌社会では、新型コロナウィルス以外の様々な疾病に対する耐性が弱まってしまうことになります。とくに土壌から遠く離れてしまった都市生活では、微生物の力を得られずに花粉症やアレルギー等の自己免疫疾患が増えているのです。

同様に農業においても、畑を耕して化学肥料を撒くのではなく、土壌を構成する成分をセンサーによって分析し、それを植物が利用可能な形で分解・資源化する土壌微生物を特定して増やしていくといったやり方が出てきています。また特定の害虫や被害を抑える土壌環境もある程度分かってきており、結果として無農薬無化学肥料での栽培が可能となります。

重要なのは、これまでオカルト的に信奉されてきた医療や農業における化学薬品忌避が、センサー技術の発展や微生物や遺伝子解析の進展によって科学技術の恩恵を受けている点です。これまでなんとなく良いと思われてきた事象が、生物多様性の具体的効果を科学的裏付けを以って証明できる時代に差し掛かっていると言えるでしょう。

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