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国破れて山河あり

経済的に厳しい状況が日本全国を覆っています。多くの企業やビジネスパーソンにとって、事業の見直しや働き方の変化を余儀なくされていることでしょう。これまで通りに戻ることはない、不可逆的な変革をどのように志向していけばよいのでしょうか。

after/with/beyondではなくNewNomal

世間では、感染症後の社会を予測したり、感染症とどのように付き合っていくかといった議論が始まっています。個人的には、すでに東日本大震災前後からローカルに軸足を移し、複数の仕事を兼務する形でリスクヘッジしてきたつもりなので、NewNomalと言われるようなライフスタイルを提言できると考えています。

NewNomalとは何か、一言で表せば「昔ながらの暮らしをアップデートすること」です。日本は清潔な水が急峻な山から流れ、国土の7割を占める森林から食料、建材、衣類、エネルギーに至るまで得てきた、天賦のベーシックインカムを持つ稀有な国です。

国民全てに最低限度の生活を保障する金額を支給する制度をベーシックインカムと言いますが、江戸時代の日本において、山水の恵みは、三千万人の生活・生業を支えるベーシックインカムとして機能していたと言えます。いわば“天賦のベーシックインカム”が、この列島には備わっていて、それが一万年以上続いた「世界で最も豊かな狩猟採集」の時代をつくり、異国の文化を受け入れて独自の水田稲作文明を育て、鎖国を可能にして、江戸の特異な庶民文化の発達を促したのです。―井上岳一著『日本列島回復論』

縄文から続く広域連携で豊かな食生活を

地方において農的暮らしを基盤にしながら定住生活するライフスタイルを志向する、そこには自給自足で田畑を耕し食料を自給するといったイメージが存在します。しかし、実は縄文時代から日本国内においては特産品の交易が盛んに行なわれており、海のものと山のものをトレードするといった習慣がありました。

縄文時代は現代よりも2-3℃気温が高かったこともあり、海面は5mほど高かったと考えられます。つまり現在の洪積台地と呼ばれる地形が古い海岸線となっており、関東地方で言えば武蔵野台地の関東ローム層がそれに当ります。実際に貝塚などは武蔵野台地の先端で見つかることが多いです。当然、山や里地も近く、回遊的な暮らしや季節によって拠点を変えるといったライフスタイルが当たり前だったと想像されます。

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気候変動によって洪水リスクは高まる

記憶にも新しい昨年の台風19号被害、都心の低地では洪水が起こるのではないかと避難指示が出る一歩手前までいきました。100年に一度と言われるような暴風雨が数年おきに発生し、ロシアンルーレットのように日本各地の必ずどこかで水害が起こることを覚悟しなければなりません。現代は縄文時代よりも平均気温は低いですが、都市部に限ればヒートアイランド現象などによって4-5℃は気温が高い状況となっているのです。

実際に東京都心部は、江戸時代に利根川が現在の太平洋に直接注ぐ形で整備されるまではほとんどが沼地であり、洪水多発地域として定住に適していませんでした。むしろ律令時代以来国府が置かれ甲州街道の宿場となった府中や生糸の交易拠点となった八王子といった郊外都市の方が、魅力的な住宅地として古くから人口集積が進んでいました。

都心住民が暮らしの安心を見つける現実解

これまで10年間、地域活性化の現場を回ってきて、過疎地域に移住を呼び込むような施策は限界を迎えていると感じます。むしろ都市郊外や地方都市と呼ばれる、歴史的にも我々の先祖が長く暮らしてきた地域に注目してミニマムリスクな環境を形成することがもっとも合理的だと感じています。

在宅勤務を基本としながらも週2-3回は都心部に出勤し、ある程度の文化的暮らしも楽しみつつ、週末には海や山でのアクティビティを楽しむといったライフスタイルは、縄文時代からの我々の本能的欲求を満たす回遊的な生活です。そして趣味や遊びといった志向的要素から横のつながりを見出し、地域コミュニティを形成していくことで相互扶助を高めていくことも可能です。

いまは感染症に対するリスクが目の前にあり、そのことに対処するので目一杯な状況でしょう。でも秋になれば再び台風が襲来するでしょうし、地震だっていつ発生するか分かりません。我々の先祖たちがいかにしてこれら多様なリスクを乗り越えてきたのか、再認識する必要があると思うのです。

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