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阪神タイガースはなぜ優勝したのか

2023年セ・リーグは、阪神タイガースが優勝しました。球団としては2005年以来18年ぶり、岡田監督は再就任1年目での快挙でした。岡田監督が常々口にしていた“アレ”はチームスローガンになり、また流行語大賞にノミネートされることも確実でしょう。「憧れるのをやめましょう」とどちらが票を集めるか注目です。

岡田監督はオーソドックスな戦術を好み、選手の守備位置や打順をほぼ固定して使うなど、昭和スタイルな王道野球が信条です。そこに最先端の選手マネジメントやモチベーション維持といった戦略を組み合わせて、若い選手たちの潜在能力を発揮させることに成功しました。

岡田阪神の開発したシステムとは

中継ぎ投手陣の9名体制

阪神タイガースのストロングポイントは強力な投手陣であり、とくにリリーフ投手の駒の多さは他球団を凌駕しています。2005年にはJFKという、7-9回を役割分担させるシステムを開発した岡田監督は、今年さらに新しいシステムを作り上げました。結果として1点差試合を25勝11敗と7割の勝率を誇り、サヨナラ勝ちも8回と試合終盤の強さを見せました。

本来、リリーフ投手は勝ちパターンと負けパターンで4名ずつ程度を登録して回すことが主流ですが、岡田阪神では岩貞・加治屋・石井・湯浅・島本・桐敷・及川・馬場・浜地・ケラー・ブルワーといった面々を調子や左右の対戦成績を見極め、一人一殺も辞さない細かい継投で7-8回を乗り切っています。

そして9名の投手を登録した上で8名をベンチ入りさせ、1名には完全休養を与えるといったマネジメントを行ないました。抑えの岩崎投手を含め、三連投させないことで疲労が溜まらないように配慮しています。調子が落ちれば二軍で調整させ、なるべくフレッシュな状態な投手を揃えました。

二遊間・クリーンナップの役割固定

阪神タイガースは甲子園という土の球場を本拠地にしていることもあり、失策の多さが課題でした。そこで昨年ショートでゴールデングラブ賞を獲った侍JAPAN戦士の中野選手をセカンドにコンバートし、ショートのポジションを木浪選手と小幡選手で競争させました。

結果としてセカンド中野選手・ショート木浪選手に固定されたことで中野選手の守備範囲は拡大し、併殺が増加するといった効果がありました。セカンド中野選手のUZR(守備指標)は4.0と12球団で3位に上昇し、併殺奪取では1位となっています。木浪選手もUZRは悪くなく、併殺奪取は1位となっています。

同様にポジションが固定されたのが一塁大山選手と三塁佐藤選手です。そして4番5番のクリーンナップを組むことで、安定した打線となりました。前年までは内外野をコロコロと守備位置を変えられることの多かった両選手がどっしりと打線の中心にいることで、出塁率の高い1番2番が活きる好循環が生まれています。

8番木浪によるクリーンナップ多重化

岡田阪神では8番に木浪選手が固定され、3割以上の出塁率で9番投手にバントさせ、得点圏打率の高い1番近本選手で返すといった戦術を執ることが可能となりました。近本選手は50打点を超え、この切れ目のない打線によって相手投手にプレッシャーを与え続けました。

もちろん木浪選手が打点を上げるケースも多く、とくに4番大山選手・5番佐藤選手は四球が増加して出塁率が高くなっていることもあって、塁上にランナーを貯めて得点するパターンが確立されました。得点数は近本選手と中野選手の1-2番が70点以上、大山選手と佐藤選手も60点以上となってます。

若い選手たちのモチベーション管理方法

四球に対する評価UP

阪神タイガースで今年とくに増加したのが四球の数です。すでに450以上、セ・リーグでは断トツの四球数を取っています。この裏には、年俸査定における四球の評価を20%UPさせることをフロントと約束した背景があります。

目の前にニンジンをぶら下げられたのはきっかけであり、四球を選ぶためには打席でじっくりと構える必要があります。実際に早打ち傾向だった1番近本選手と2番中野選手はチーム2位と3位の四球数となっており、早いイニングから先発投手に球数を投げさせることで好投手でも終盤に攻略できるようにするといった、粘り強い打線になりました。

転機となった追悼試合と夏のロード

7/18に28歳の若さで亡くなった横田慎太郎さんの追悼試合が、7/25の対巨人戦で実施されました。そこで打線が一丸となって逆転勝利したことで勢いが増し、夏のロードに突入しました。過去には死のロードとも呼ばれたこともありましたが、今では空調の効いたドーム球場でゆとりを持ってゲームできるということもあり、10連勝を含む18勝5敗と貯金を13も増やしました。

7/2に死球を受け肋骨骨折により離脱していた近本選手が7/22に復帰したことも相まって8月以降の勝率は7割を超え、8/16には待望のマジックが点灯しました。連勝を重ねていたこともあり、またマジック対象チームの広島が連敗していたこともあって、マジックは一気に減って優勝に突き進むことができたのです。

2軍落ちも経験した佐藤輝明の覚醒

5番バッターとして8月後半から打ちまくっている佐藤輝明選手ですが、中盤では打撃不振に陥り6/25に1軍登録を抹消されています。技術的というよりも精神的な問題とされ、またクリーンナップを打つ中心選手でも容赦なく制裁的に2軍落ちする状況は、若いチームに緊張感をもたらしました。

結果として、オールスター後には打率3割超え、10HRを放って3年連続20HRを達成する等の覚醒と呼べる進化を見せ、終盤の快進撃の立役者となりました。とくにルーキー森下選手と仲良しで、「アイブラック兄弟」としてともに活躍するなどチームを盛り上げました。

補強しなくても新戦力が台頭する

今季の阪神タイガース投手陣の中心となったのは、村上投手と大竹投手です。村上投手は3年目ですがこれまで1軍での登板はほとんどありませんでした。4/12の対巨人戦で7回まで完全試合の衝撃デビューを飾ると、4/22対中日戦で完封での初勝利を上げます。そこからの快進撃ですでに10勝を重ね、新人王を確実視されています。

現役ドラフトでソフトバンクから獲得した大竹投手は、抜群のコントロールで内角を厳しく突き、とくに前半快進撃の立役者となりました。伊藤投手含めた3投手が9/8-10の対広島戦で10勝トリオを達成するなど、昨年の段階では計算していなかった新戦力の台頭によって勢いが増しました。

CSと日本シリーズ、来季に向けた展望

俄然有利なクライマックスシリーズ

ペナントレースが終わるとCSと日本シリーズが待っています。セ・リーグ相手のCSについては有利な状況でしょう。現状では2位広島、3位DeNAとなりそうな順位で、それぞれ大きく勝ち越しており、またファイナルステージは本拠地甲子園での開催でスタンドの応援を味方につけられるため、CS突破はかなり堅いのではないかと思います。

とくにCS1stステージでは各チームの主力投手を登板させ、ファイナルステージでは裏ローテの投手と対戦することになります。広島では床田・森下・九里、DeNAでは今永・東・バウアーといった表ローテの投手と対戦する公算が低いでしょう。正直、両球団とも裏ローテの投手は数段落ちるので、たとえ勢いがあったとしても打ち崩せることでしょう。

戦術と対策を要する日本シリーズ

日本シリーズでは、かなり戦術を組み立てなければ厳しい闘いになるかもしれません。今年は交流戦を負け越しており、またDHで使えるような代打層が薄いこともあってパ・リーグの強力投手陣を打ち崩せるかが課題です。とくにオリックスは山本・宮城・山下といった先発陣が揃っており、粘り強く打てる球を待つ姿勢がこれまで以上に重要となります。

一方で投手陣については、村上投手や大竹投手、伊藤投手のようなコントロール重視のピッチャーはパ・リーグには少ないため、有利に戦えるでしょう。ここに青柳投手や西勇輝投手らベテランが第二先発の形でスタンバイできると、場面に応じた起用が可能となります。岡田監督の調子や相性の見極めといった目利きがさらに重要になってくるでしょう。

ドラフト指名してほしい素材

10/26にはドラフト会議が開催されます。戦力充実する阪神タイガースは、今年も良い指名が期待されます。恐らくはピッチャーを中心に指名することになるでしょう。とくに大卒の候補が豊富なので、即戦力かつ阪神好みのクレバーなタイプの青学大常広投手や東洋大細野投手などが有力視されています。

また今季は1軍戦力になれなかったけど、来季に向けて2軍で牙を研いでいる期待の若手もたくさんいます。一昨年のドラ1森木投手や昨年のドラ2門別投手、打者では前川選手や井坪選手もさらに飛躍してくれるでしょう。また、高橋遥人投手のTJ手術が終わり来季は投げられる見込みです。

もちろん、現役ドラフトも今年はさらに獲得枠が拡大しそうです。残念ながら今季のチームではあまり出番のなかった秋山投手や髙山選手、北條選手が候補に挙げられる中で、他球団からどんな選手が獲得できるのかも注目していきましょう。


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