阪神タイガースはなぜ人気があるのか
私は阪神タイガースファンです。最近は野球観戦に連れて行った甥っ子まで阪神ファンに感染させてしまうくらい、試合結果によって機嫌が左右される具合の熱狂さと表現すれば良いでしょうか。リーグ優勝は2005年以来、日本一に至っては1985年に唯一達成した程度の戦力的にはあまり強くない球団なのに、どうしてこれほど人気があるのでしょうか。
現在、日本でもっとも多いのは阪神ファン
2019年の観客動員数をみると、宿敵・読売ジャイアンツを抑えて阪神タイガースがトップとなっており、一試合平均43,000人を超えるファンが球場に詰めかけていることになります。甲子園の収容数は約47,000人であり、他球団主催試合や地方球場での開催を加味すれば、連日満員に近い状況で試合が行なわれていることになります。
2005年に大阪府立大学が10万人以上にアンケート調査した結果でも、阪神ファンは17.7%と12球団トップとなり、読売ファンの17.6%を上回っています。観客動員数においても同様の傾向が見られることから、関西に限らず日本全国では阪神ファンが最大勢力を占めているわけです。
阪神タイガースという優良企業
阪神タイガースは阪神電鉄の子会社であり、さらに阪急阪神ホールディングスという売上高8,000億円の巨大コングロマリッドの一部となっています。阪神タイガース単体は売上高200億円、純利益で10億円を毎年積み上げており、利益剰余金は100億円もあります。DeNAがTBSからベイスターズを買収した際の金額が65億円ですから、その気になれば他球団も買収できてしまうほどの内部留保が存在しています。
しかし、世間からは阪神タイガースはドケチ球団として有名であり、外国人補強やFAに対して「金庫を開けろ」という表現がしばしばファンからも聞かれます。実際に阪神タイガースは球界ではソフトバンクホークス、読売ジャイアンツに次いで第三位の約34億円の年俸総額を選手たちに支払っているわけですが、助っ人外国人や高額なFA選手が機能しないといった補強下手な印象と相まって投資対効果はあまり高くない状況にあります。
阪神タイガースの黒歴史・お家騒動
熱狂的なファンに支えられ、経済状況も悪くない阪神タイガースですが、肝心の試合では拙攻やエラーが目立ち、夏場には一瞬良いところを見せるもののペナント終盤には必ず失速するという体たらくを見せています。ここ10年の順位は2→4→5→2→2→3→4→2→6→4(2019.8現在)と、優勝から遠のいており、故・星野監督が進めた改革から再び暗黒時代に戻るのではないかと危惧されています。
昨年も続投が既定路線だった金本前監督が、シーズン終盤の最下位転落で親会社の意向から急遽退任することとなり、コーチ組閣もそこそこに矢野監督が就任するというバタバタ具合を見せました。このようなお家騒動は定期的に発生し、その度に関西マスコミやファンが大騒ぎする状況となります。
阪神ファンに通底する家族意識
このような球団のお家騒動から選手たちの一挙手一投足に至るまで、逐一記事にするデイリースポーツを始めとした関西マスコミと、近年はネットを中心に野球中継や補強・ネタをやり取りするファンたちは、阪神タイガースをプロ野球チームというよりは近所の草野球チームくらいの親近感を持って接している感覚があります。上手く投げられなくなってしまった藤浪晋太郎を我が子のように心配し、もはや戦力としてカウントするのも微妙な鳥谷敬の登場を期待するのが、正しい阪神ファンの態度と言えます。
それは阪神タイガースから退団した選手たちに対しても同様であり、退団後に広島カープで大活躍した新井貴浩に対しては「新井が悪い」とイジり倒し、大金を叩いて外スラに対応できなかったロサリオは定期的に補強ネタに登場しています。金本前監督が解説者としてやってくると視聴率が上がるといった、期待外れに終わった人間たちに対しても口は悪いですが寛容度のある、まさに関西人のような接し方をしていると言えます。
ビジネスライクになり切れない球団の宿命
それは球団人事にも言えて、監督やコーチ陣は基本的に球団OBで固められ、それ以外に戦力外になった選手も球団職員などでしっかり雇用を守るといった姿勢が補強し切れない要因として挙げられます。本来であればドライに割り切って外部から首脳陣を招聘し、戦力にならない選手はどんどん切っていくといったやり方がプロの世界では不可欠でしょうが、そこまで冷徹になれないまさに浪花節の雰囲気が見え隠れします。
DeNAや楽天など、気鋭のIT企業が参入したチームはかなりドラスティックに人事や球場を含めた全体最適経営を推し進めている印象ですが、阪神タイガースにもそういった方向に進む可能性はありました。そう、村上ファンドによる阪神電鉄の敵対的買収が成功していたら、阪神タイガースはもしかしたらまったく別のチームになっていたかもしれません。
結果として阪急阪神ホールディングス傘下となり、球団の自主性が担保される形で維持されているのは、熱狂的なファンの存在とともに、球場をボールパークとして滞在価値を最大化する潮流に対して甲子園球場を自前の不動産として活用できたという与件が挙げられるでしょう。巡り巡って、地域フランチャイズとボールパーク経営という最新のスポーツビジネスを実現できている幸運が阪神タイガースを支えています。