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日本ローカルの勝ち筋としてのSDGs⇒ESGへ

SDGsは、何だか地球や環境に良いことをしようといった漠然とした善意による取組みといった認識が日本においては支配的です。しかし、世界においてはむしろそんな甘ちょろいことを言っている場合ではなく、グローバルの新たなルールとして、まるでいきなり五輪での競技が不利になってしまう事態が進行しています。

日本では主にSDGsという言葉が使われがちですが、世界は金融・投資の世界を中心にESGを盛り込むことにまさに必死になっています。Environment, Society, Governance の3つの領域の頭文字であるESGは、欧州とアメリカ、そして日本においてそれぞれ違った思惑で取り入れられてきているようです。

Environment領域に熱心なヨーロッパ

環境政策とくに脱炭素に熱心であるEUは、ウクライナ紛争による化石エネルギー供給不安によってその動きを加速しています。2050年カーボンニュートラルはもとより、2035年までのEVシフトや国境炭素税の拡大など、貿易相手である日本にも影響のある取組みが進んでいます。

これらは21世紀のブロック経済とも考えられます。つまり、環境性能や対応策を前提とした取引コストを高めていくことで、非資源・人口減少の条件下にあるヨーロッパの国際的影響力を高める狙いがあります。そしてその条件は日本にも共通するものですので、Environment領域において日本も取組みを進める合理性があります。

Society領域を歴史に含有するアメリカ

格差是正や多様性の尊重は、アメリカ発の価値観です。人種や自由といったアメリカ社会に内在する課題をいかに解決していくか、企業活動に盛り込んでいくことで市場開拓や人材獲得に有利に働く側面があります。それは小さな政府のアメリカという国の成り立ちに関係します。

アメリカと関係の深い日本に対しても、格差是正や多様性尊重に対する取組みを促すような様々な外圧とも呼べる声明が相次いでいます。最近でもジェンダーギャップ指数が世界125位に後退するといったニュースが発表され、またバイデン政権からの強い要請によってLGBTQ法案が国会可決されるといった動きがあります。

Governance領域で最大の運用資金を持つ日本

コンプライアンスや情報開示の面において、とくに上場企業に対してコーポレートガバナンスコードと呼ばれる、企業役員の多様性やサステナビリティに対する取組みといった、経済活動だけではない情報を決算公告に盛り込む実質義務化が行なわれています。

これらはヨーロッパやアメリカの市場と足並みを合わせる面もありますが、実は日本においても長期投資を前提とした年金や保険といった機関投資家の資金が大半を占めている現状があります。個別の株価や決算に一喜一憂する個人投資家と違い、中長期に安定的に経済が拡大し、社会が持続的に進んでいくことが求められるβアクティビズムが、むしろ企業価値や投資先選定の前提となっているのです。

E=〇,S=✕,G=△な日本企業

これら経緯の異なった卵であるESGを同じカゴに入れて論じていると、本質を見誤ってしまいます。日本企業は、省エネや公害対策といったE領域は得意であり、熱心に取り組む傾向にあります。一方でヨーロッパではすでにウクライナ紛争の終結を見込んで脱炭素政策の見直しが検討されるといった、ドラスティックな動きも見え隠れし、各国の思惑も一枚岩ではありません。

S領域では相変わらず壮年男性が役員に並び、年功型の封建的な組織形態から脱却できない日本企業はたくさん存在します。女性や若手を抜擢しようにも、そこまで魅力的な業務や報酬を用意できないジレンマが多くの企業にとって足かせとなっており、S領域における対策の難しさを物語っています。

上場企業を中心にコンプライアンスや情報開示の整備は進んでいますが、中小企業の大半が非上場企業であり、同族による株式の持ち合いやアクティビズムとは無縁の経営を依然として進めています。G領域においては対応が分かれるという状況になりつつあります。

Society◎なローカル企業が海外取引できる

20世紀は資本金≒どれだけハード投資できるか の多寡が企業価値を決めていました。21世紀はソフトでのビジネスが主流になってくるにしたがい、むしろESGという新たなプロトコルに対応できているか否かが取引先として選ばれる時代に差し掛かっています。とくにアメリカとの経済的結びつきが依然として強い日本においては、Societyの部分をしっかりと押さえておくことで海外と直接取引できるのです。

たとえばユニクロは、従業員の多様性をとくに重要視しており、難民雇用やLGBTQの対応にも積極的です。そしてこれら情報開示についても、SDGsではなくESGのプロトコルにしたがって公開されており、もはや日本国内市場ではなく海外展開に目を向けていると理解できます。

とくに日本の地方にある中小企業は、団塊世代を中心とした創業者が引退し代替わりを迎える時期に差し掛かっています。その事業承継の際に、S領域での対応を一気に進めるといった取組みも可能でしょう。

まるで封建社会の領主や貴族といった縦の支配から脱却し、海運というイノベーションな流通によって荘園を築いていった各地方豪族のように、原料コスト高や人口減少による市場や雇用の収縮といった現実に手をこまねいているよりも、一気に海外進出や多様な働き方を受容する方向に舵を切ることこそが、ローカル企業の生き残り策になっていくと言えるでしょう。

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