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そうか、バトンを渡されたのだ。/人口戦略法案

年初の一冊はこれ、『人口戦略法案』。著者は山崎史郎氏、厚労省で介護保険制度の立上げを担い、地方創生初代総括官(地方創生政策の事務方トップ)として就任された際には個人的にもお世話になりました。

山崎史郎『人口戦略法案』
厚生労働省で介護保険制度の立上げに従事し、"Mr.介護保険"の異名を持つ。その後、厚労省社会・援護局長、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官、リトアニア全権大使を歴任し、2022年より内閣官房参与・全世代型社会保障構築本部事務局の総括事務局長に就任。

北海道の小さな炭鉱の町での経験

この本に登場する北海道町村会の北町長のモデルは、私が赴任した奈井江町の北良治前町長です。残念ながら昨年10月に亡くなっています。介護保険の地域側の受け皿として、全国に先駆けて近隣市町と広域連合を組んで事務事業を一元効率化するといった先進性を傍らで学ばせていただきました。

北海道に赴任する際に、山崎総括官から声を掛けられたことを覚えています。「奈井江町は自分の大切な場所だ、くれぐれも頼む」と。どうして北海道の寂れた旧炭鉱の町に地方創生の事務方トップがこれほどまでに思い入れを持っているのか、当時は分かりませんでした。しかし、この本を読み進めるにつれて明確にその意味合いが理解できました。

やり過ぎた介護保険と少子化

山崎氏は介護保険制度の立上げを通じて、歴史に残る仕事をされた方です。それとともに現役世代の経済的負担を増やすことで高齢世代の介護を支える仕組みが、実は子育ての困難さを増幅させるような影響を持ったとも述懐されています。そして地方創生総括官としてどんどん子どもたちの声が聞こえなくなる地域の現状を見聞きするに至り、再度危機感を高めます。

そこで、この本では「子ども保険」という具体的な法案を制定し実現させるプロセスが記載されています。もちろん、ベースとなっているのは介護保険制度の内容ですが、2020年代の明確なイシューとしていかに人口減少を緩やかにし子育てしやすい地域社会をいかに創っていくのかに焦点が当てられています。

そして現実社会においても、山崎氏は岸田内閣の参与に就任され全世代型社会保障構築本部事務局の初代総括事務局長として陣頭指揮を執られることになりました。恐らくはこども庁の主要業務の一つとして政策制度化が進められていくことでしょう。

罰ゲーム的な負担の押し付け合いから逃れる方法

折しも、こういった北海道での現場経験や様々な地方創生の事業立案を経て、地域発の共同体で社会を下支えする構造をつくる取組みを実証的に始めています。産官学や都道府県/市町村といった縦割り構造をなくしていきながら、地域自治に基づいた共助機能を最先端の科学技術やITを活用しつつ実装していきます。

7年前に30代の何者でもないペーペーの人間がなぜか国の看板を背負って北海道の小さな町に派遣され、縮小社会の現実を嫌というほど体験しました。あの当時は何事も中途半端でできないことも多かったのが悔しい部分もありました。それでも改めてこの本を読んで、故・北町長の想いと70歳近くになりながらも精力的に動き続ける山﨑氏の姿から、やるべきことが明確になりました。


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