北海道奈井江町ふるさと創生アドバイザーになりました
この4月より、内閣府まち・ひと・しごと創生本部「地方創生人材支援制度」に基づき、北海道奈井江町の非常勤特別職・ふるさと創生アドバイザーとして赴任することになりました。月に数日程度、北海道のほぼ真ん中に位置する空知平野のまちの地方創生について、総合戦略づくりを支援していきます。
石破茂地方創生担当大臣との懇談会の際
北海道奈井江町の現況
奈井江町は1944年に砂川町より分村した比較的歴史の浅い自治体であり、石炭のまちとして活況を呈しました。ピーク時には約2万人の人口を抱え、インフラ整備も進められましたが、1970年代に炭鉱が閉鎖されると人口流出が進み、2015年現在では人口6000人を下回り、高齢化率約40%の典型的な過疎高齢化の自治体となっています。
一方でまち独自の取組みとして、早くから「奈井江町まちづくり自治基本条例」を制定し、まちづくり町民委員会の設置や町長自らが各地で町政懇談会を実施するといった、地域住民主体のまちづくりを進めています。その結果、平成の大合併が各地で進められた2003年には、子どもたちまで含めた住民投票を実施して合併反対を決めるといった、自主自立の道を選びました。
また、「おもいやりの障がい福祉条例」や「子どもの権利に関する条例」、「高齢者等支え愛条例」など、マイノリティ重視の姿勢をいち早く政策として打ち出すとともに、実際のまちづくりについても高齢者や障がい者、そして子どもたちの暮らしやすさを追求するといった動きを進めています。
実際に2013年に竣工したJR奈井江駅前にある「多世代交流プラザみなクル」は、子どもたちの学習から地域住民のスポーツ健康増進、葬儀利用まで含めた多目的スペースとして活用されています。まさにゆりかごから墓場までといった住民福祉を体現する施設であるとともに、全面バリアフリーや調理場、無料WiFiまで備えた地域住民の憩いの場としての機能を備えています。
フィンランド・ハウスヤルビ町との交流
福祉と健康のまちを提唱する奈井江町では、20年前より福祉先進国であるフィンランドのハウスヤルビ町と友好都市となり、定期的に交流視察団を送るといった相互交流を深めています。町内にはフィンランド風ログハウスを象った道の駅ハウスヤルビ奈井江が設置され、日本一の直線道路29.2kmの国道12号線の中間地点として地元食材を提供するなど、賑わいを見せています。
フィンランドと言えばサンタクロース、あるいはフィンランドメソッドと呼ばれる教育方法が有名ですね。近年ではハイテク起業の聖地として注目を集めていますので、そういったコンテンツもまちづくりに導入していくと面白いかもしれません。サンタクロースみたいなおじいちゃんが、子どもたちにフィンランドメソッドを教えて学力向上を図り、将来その子どもたちが起業するといった流れになると良いですね。
ハイテク産業のマザー工場があるまち
奈井江町には北海道住電精密というメーカーのマザー工場があります。精密機械などを製造するために必要な超鋼工具を開発生産しており、ここで設計された製品やラインが世界各地の工場やマーケットに使われます。まさに最新鋭の製造設備とノウハウを備えたトップランナーが立地しているのです。
住電精密には約900人の従業員が働いており、近隣の高校や大学から若者が毎年このまちにやって来ます。30歳までは独身寮に入れるのですが、結婚などによって退寮した若者をいかに町内に住んでもらえるようにするか、人口対策としては極めてシンプルな施策を実施すれば良い状況です。企業と連携しながら、住宅取得や子育て支援の面で様々な政策を立案したいですね。
奈井江町から始まる地方創生
以上のように、奈井江町を取り巻く現状を俯瞰してきて、どんな感想を抱いたでしょうか?意外なほどにしっかりと、地に足の着いた取組みを進めていると感じませんか。実際にいくつかの地域プロジェクトに関わってきた私の目から見ても、かなり状況としては好ましいと感じます。
たとえばみなクルを中心としたコンパクトシティの取組みや、住電精密との企業連携といった先進事例を対外的にPRすれば、全国から視察観光を呼び寄せることができるでしょう。正直、プランナーとして向こう5年程度の地域振興を図るのであれば、てっとり早く計画をつくることも可能です。
でも、町長からオーダーされているのはその程度の計画ではありません。奈井江町の取組みが国の地方創生政策をも動かす、自主自立の自治体としての矜持を持って進めてきた住民主体のまちづくりを全国的に波及させていくことです。そしてそれこそが、私がふるさと創生アドバイザーとしての職を受けて、縁もゆかりもない奈井江町に関わる理由でもあります。
そのためのキーワードとして重視したいのは、①自然環境からの収穫を逓増させていくような地域資源の再生産力を際立たせること、②住民自治の取組みを発展・進化させるためにICTの仕組みを採り入れること、③高齢者や障がい者などが暮らしやすいまちを表現すること と現状では仮説定義しています。
これらをビジョンとして地域住民と共有しつつ、具現化を図っていくプロセスについて、この1年の活動を継続的に進めていきたいと考えています。