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なぜリベラルは負け続けるのか?

兵庫県知事選挙が投開票され、現職の斎藤元彦知事が不信任決議案からの出直し立候補で勝利し、県民から再任された形となりました。先のアメリカ大統領選挙では共和党トランプ前大統領が返り咲き、衆院選では国民民主党が躍進したように、世界的に見てもローカルでも政策的には右寄り・保守に映る候補者が相次いで当選しています。

一方で一人負けの様相を呈しているのが旧来の左派と呼ばれる陣営であり、兵庫県知事選挙の稲村和美候補や東京都知事選挙の蓮舫候補など、ある程度経験を積んだベテラン候補者を満を持して押し出したにも関わらず敗れる格好となっています。どうしてリベラルは負け続けているのでしょうか?

右派を後押しするテクノ・リバタリアンの台頭

トランプ大統領の選挙活動に対して、実業家のイーロン・マスク氏が大きな役割を果たしたことが話題となっています。2016年の前職時にも、実はピーター・ティール氏というシリコンバレーの大物がトランプ氏の後押しをしており、リベラル層が支配するカリフォルニア州において独特な動きが出てきています。

そもそもトランプ大統領の支持基盤は、白人の貧困労働者を中心とした保守層とみられていました。移民や黒人に対して差別的発言を隠そうとしないトランプ陣営は、リベラル層にとっては明確な敵であるはずです。そこに対してアメリカ出身ではないイーロン・マスク氏やピーター・ティール氏が巨額の私財を投入してまで政治に介入するのか、「テクノ・リバタリアン」という新たな思想が見え隠れします。

テクノ・リバタリアンとは何か?一言でいえば「テクノロジーを活用した市場原理によって究極に小さな政府と自由経済を目指す思想」です。公的機能を私企業の経済活動によって補完する新自由主義と呼ばれるネオリベから、さらにテクノロジーを開発・実装するための規制緩和をセットにした価値観であり、テスラ社における自動運転技術の社会実装やスペースX社での宇宙開発事業を手掛けるイーロン・マスク氏が分かりやすいですね。

テクノ・リバタリアンから見ると旧来の右派左派ともに保守派である

そして、イーロン・マスク氏がTwitterを買収してXと改称し、このSNSをフル活用して選挙戦に投入したことで、旧来マスメディアよりも大きな影響力を獲得するに至りました。真偽の分からない情報が瞬く間に流布し、減税や雇用の維持といった耳障りの良いポピュリズムはSNSと相性が良く多くの賛同を集めました。一方で新聞やTVを中心としたオールドメディアは選挙期間中は公平かつ抑制的な報道に終始することを余儀なくされ、とくにSNSを中心に情報収集する若者たちは一見すると右寄りの投票行動を取るようになります。

日本の地方選挙で起こっていること

このアメリカにおけるテクノ・リバタリアンの台頭は、当然日本国内の地方選挙に対しても影響を及ぼしています。1つはN国党や参政党、日本保守党といった少数かつワンイシューで議席を獲得し始めている政党の台頭です。どちらもSNSを中心に政治活動を展開し政治資金をオンラインで集め、旧来の区分けでは右寄りな政策を声高に叫びながら人気を得ています。

本来であれば立憲民主党や社民党、共産党といった旧来の左派政党が政権与党に対するカウンターパートとして、自民党議員による裏金疑惑や広がる経済格差の是正といった既得権益層の打破を目指すべきでしょう。しかしこれらオールド・リベラル層の対案なき批判や新聞TVの旧来メディアと結び付いた敵対構図を創出する状況こそが、茶番劇のようなガス抜きに見えると言えます。つまり永遠の野党の座にしがみつくオールド・リベラル層こそがただの反対しか言わない既得権益層になっていると、現実の貧困や格差に苦しむ現役世代には映っているのです。

もう1つ兵庫県知事選挙に関して言えば、現職批判や原則論に終始して具体的な政策を説明しない稲村和美候補に対して、既得権益層と戦いメディアスクラムによっていじめられる孤独な斎藤元彦知事という構図が選挙期間中にSNSを中心に形成されていき、最終的にリアルなムーブメントとして競り勝った形です。その裏に大きな資本家の選挙資金が動いているのかは良く分かりませんが、開票結果を見る限りでは県北など地方部では稲村候補が優勢なところも散見されますが、神戸市や姫路市など大都市圏では斎藤候補が圧勝していることが見て取れます。

崩壊した旧来の左右イデオロギー

確かに言えるのは、人口動態的にボリュームゾーンとなっていた団塊世代が75歳以上の後期高齢者に差し掛かり、投票率が落ち始めていることです。物理的に投票所に足を運べなかったり、投票するための情報収集能力が落ちていたり複合的な理由が考えられますが、次に人口ボリュームの大きな団塊ジュニア世代に選挙での影響力の中心が移っていると考えられます。

そして団塊ジュニア世代はバブル崩壊後の就職氷河期やリーマンショック後の長引く景気低迷から賃金が上がらない状況をずっと経験してきており、経済格差や既得権益層の保身に対して敏感になっています。この世代から見える景色では、オールド・リベラル層は新聞TVと結託して経済的優位を保持する既得権益として打破すべき存在に映っているということでしょう。

そしてオールド・リベラル層自身が自分たちは社会正義を実現する立場で、無知で愚かな有権者たちを教え導いていかなければならないという、一種の上から目線での賢しい批判的言動しかできていない現状をしっかり認識する必要もあるでしょう。この反省なくして、日本のリベラリズムは退潮する一方だと感じます。

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