地方大卒を地元就職させる唯一の方法
所属する地方大学においては、というよりも現在の地方国公立大学にとって大きなミッションの1つとなっているのは、地元就職率を上げることです。地方創生政策の一環として、若者の都市部とくに首都圏への流出を防ぐ名目の下、運営費交付金など様々な補助金のKPIに地元就職率が入っています。
偏差値が上がると人は流動しやすい
結論から言えば、入試偏差値を下げれば地元就職率は上がります。マイナビが公開している地元就職率のデータでは、高校と大学の所在都道府県が同一の人は、70%程度地元就職することが明らかになっています。そして、偏差値の高い大学ほど地元進学率は下がる傾向にあるため、地元進学率の高い低偏差値大学となれば、地元就職率も上がります。
とはいえ、多くの大学にとって入試偏差値を上げるモチベーションはあっても、下げることを積極的にやるところはないでしょう。偏差値は就職先の善し悪しにも影響する要素であり、なるべく成績の良い学生を集めたいというのは大学関係者にとって普遍的な心理となっています。その辺りのことは以下の本にくわしく書いてあります。
ペーパーテスト偏差値以外の評価項目を
紆余曲折の末、導入延期が決まった大学入試共通テストにおいても、思考力や表現力といった記憶力を問うペーパーテストだけでは測れない能力をいかに評価するかに力点が置かれています。AO入試のような主体性を問う方式での入試も一定の人気を集める一方で、中学や高校での成績や態度を内申点として評価する仕組みが続く限りは、言うことをよく聞く労働者タイプの輩出を目指す教育のままであるとも考えられます。
AIやロボティクスの発展によって、記憶力や単純労働は機械やコンピュータに任せれば良い社会になってきています。多くの企業にとって、すでに言われたことをやるだけの労働者よりも、事業開発やイノベーションを創出するようなクリエイティブクラスが求められている時代において、大学も偏差値教育一辺倒ではもはや生き残れない状況でしょう。
豊岡に開設される国際観光芸術専門職大学
兵庫県豊岡市に、国際観光芸術専門職大学が2021年春に開設される予定です。劇作家の平田オリザさんが学長となり、主に演劇を中心にコミュニケーションや表現力といった芸術分野のマネジメント手法を学ぶカリキュラムが用意されています。
豊岡市は城崎温泉のような古い温泉地を中心として、コウノトリの住む田園地帯での環境調和型農業や、津居山かにを初めとした高付加価値な魚介類を持続可能な形で採集する水産業など、優れた観光資源を有しています。実際に私も豊岡に足を運び、津居山かにフルコースやコウノトリ米といった地域の食に舌鼓を打つとともに、城崎の7つの温泉を巡りました。
偏差値以外の評価軸を用意する
この豊岡での動きには、地方が今後若者から選ばれ、オンリーワンの存在として生き残る重要な示唆が含まれていると感じます。たとえばプロのスポーツ選手は、ペーパーテストの成績が悪くても高給で活躍する機会が得られます。偏差値という記憶力と再現性を問う能力評価の仕組みから逸脱し、プロとして生きていける基盤を特定の地方で用意していくのは、最終的にはその地域が持つ魅力や資源を高めることにも繋がるでしょう。
とくに演劇のような、同時性の高いコンテンツは一定数のコアなファンが付きやすく、必ず現地に足を運ばなければ体験できません。現地に行くには、宿泊や食事といった消費がセットになりますから、その質が高ければリピート率は上がりさらに多くのファンを引き寄せることになります。とくに芸術や味覚、温泉といった感性に訴えるコンテンツを地方で用意することは、対極としての中央=東京の価値観から逸脱する推進力となります。
国際観光芸術専門職大学の地元進学率を高める仕掛け
この平田オリザさんが中心となって進めている国際観光芸術専門職大学は、もう1つ大きな仕掛けをつくろうとしています。地元の高校生以下の子どもたちに対して、無料で観劇ができるような江原河畔劇場を建てることで、地域の芸術に対するリテラシーを上げていく挑戦です。消費者ではなく表現者・創出者として若者たちが挑戦する地域の生態系を形成することで、東京の劣化コピーではない国際的にも評価されるような枠組みを構想しているのです。
現在、この江原河畔劇場設立プロジェクトではクラウドファンディングが実施されています。ストレッチゴールには、高校生以下の観劇無償化や児童劇団の創設、若手演劇人育成といった意欲的な機能が設定されています。多くの閉塞感漂う地方にとって、エポックメイキングな取組みになりそうなこのプロジェクトについて、是非とも一口乗ってみませんか?
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