組織戦略の考え方
「戦略」という言葉が社会で頻繁に使われるようになって久しい。本来は軍事用語であるこの言葉の意味合いについて、定義が曖昧なままに用いられているケースも散見する。
戦略とは、組織の将来像を実現するための道筋である。
たとえば、東京駅から六本木ヒルズに向かうルートを検索した際には、以下の3つのルートが提示される。
①は最短距離だが渋滞しがちなルート
②は直線だが信号の多いルート
③は迂回路だが首都高速を使うルート
それぞれ到達時間が同じだとすれば、制約条件(渋滞or信号or高速)を比較して優先順位をつけ、どの道を選択するかを判断する必要がある。すなわち、それが東京駅から六本木ヒルズに向かう道筋(シナリオ)である。
将来像(ビジョン)は魅力的か
組織戦略における目的地とは、将来像(ビジョン)となる。このビジョンが魅力的でなければ、そもそも組織にとってそちらに向かう求心力が失われる。そのため自社(自己)にとって、また他社(他者)にとっても魅力的な将来像(ビジョン)を提示することが組織において求められる。
一方で将来像(ビジョン)と道筋(シナリオ)の関係はトレードオフである。つまり、将来像(ビジョン)が遠大であるほど道筋(シナリオ)は複雑となり、多くの選択肢が発生する。経営者やリーダーはこの将来像(ビジョン)と道筋(シナリオ)のバランスを取りながら、組織戦略を描くことが仕事となる。
戦略に一般解はない。
組織においてもどういった将来像に向かうのか、戦略の意思決定が必要となる。いわゆる「組織戦略」と呼ばれる経営上の意思決定について、近年とくに重要性が増してきている。企業においては変化の激しい市場環境に対応していくために、事前計画的な戦略(Strategic Planning)と事後対応的な戦術(Tactical Point)をバランスよく進めていく必要がある。
戦略とは他社(他者)と差別化するために用いるため、「必ず成功する」といった一般解は存在しない。むしろ、おかれた固有の状況を見極めて特殊解を導き出すことこそが戦略であり、なるべく筋の良い道を見つけて進み続けることが成功への近道と言える。
マネジメントと現場は、どっちも大事
一般的には、マネジメント層における事前計画と、現場サイドにおける事後対応の重要度は50:50と言われている。つまり、地図を見て道筋を決める行動と、状況に応じて柔軟に対応する重要性はどちらも同じ程度であり、独自要因と外部要因に区別できる。独自要因についてはなるべく事前計画によってあらゆる道筋(シナリオ)を検討しておいた方がよく、外部要因についてはノウハウ・経験・直感といった現場対応力を高める訓練が重要となる。
現場が優秀、故に日本にはマネジメントが足りない。
日本の組織の場合、現場サイドが優秀で様々な状況に対応できてしまうケースが多い一方で、事前計画の欠如によって場当たり的な対応(クライアントからの無茶ぶり、話が通っていない等)を強いられ、結果として労働時間が長くなったり効率性が低く利益が上がらないといった組織が大半である。
日本の組織においては、内部昇格型で現場サイドから上ってくるために、組織内の人間関係は固定化される傾向にある。そのため、本来は経営者やマネジメント層として中長期的な計画を立てる立場にある人が、短期的な現場対応に終始しているケースが非常に多い。
日本でマネジメントが要らなかった時代
市場環境が変化せず、連続的に市場の拡大が見込めた時代においてはこの組織マネジメントは有効に機能していたが、市場環境が多様化する一方で市場が飽和した環境においては、既存の延長線上で事業を行なっていてはいずれ頭打ちとなる。
多くの日本の組織はこのような人事慣行を改めるには至っておらず、結果的に人口動態に伴った市場の縮小とともに業績不振となっている。本来であれば、市場の変化や将来像(ビジョン)を見通した道筋(シナリオ)の計画策定を行なうマネジメントが重要となるが、実際のマネジメント層にはそのような訓練をしてきた者が少ないために、戦略不在のまま場当たり的な対応を繰り返している。
アメリカに多い、外部調達マネジメント
アメリカの組織においては階層毎の役割は明確に定義されており、中長期的な戦略策定については外部調達のプロフェッショナルを用いることが多い。市場環境の変化や事業ドメインに合わせた専門性を持つマネジメント層が常に流動しているため、経営層の全体戦略=将来像(ビジョン)に基づいた道筋(シナリオ)=事業戦略を策定する役割を担う。
市場環境の変化が早いために、試作商品をリリースして、市場からのフィードバックによって改良を加えながらオープンな形でイノベーションを志向していくタイプの新興企業に多い経営形態である。
日本における、組織マネジメントの形
日本においては、内部昇格型ヒエラルキーの慣行はまだまだ根強く、マネジメント層を外部調達するといった動きはまだ少ない。一方で現場サイドが優秀であるため、ある程度の不確定要素や事後対応を許容する力は存在する。ある程度の戦略オプションを外部に持ちつつ、オープンイノベーションを志向していく方向性にシフトしていく可能性は十分であろう。
内向的な日本型組織の組織戦略とは
日本の組織戦略において、既存の労働慣行を維持しつつオープンイノベーションを志向していくためには、現場レベルで持つ「あれをしたい」「こうしてみたらどうだろう」といた声を集めて、有志によるチームを立ち上げることが有効であろう。この場合、組織横断型でチームを立ち上げる必要があり、1つのチームは3~8名が理想である。
それぞれの立場が持つ課題や疑問を、チームという形で組み合わせることでによって新結合が生まれ、それがアイディアとなる。これらアイディアを戦略オプションとして組織外部にプールしておきつつ、然るべきタイミングで組織内部に採り入れる判断を組織毎に進めていくことで、ある程度オープンイノベーションを志向しつつ、既存の内部昇格型ヒエラルキーを維持することができる。
この場合の組織外部におけるアイディアのプールは、企業や業界といった垣根を横断して設けられるべきであり、一方で具体的な課題領域や研究機関、地域といった条件においてグルーピングされることで、有効に機能していくように思う。