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にわとりという最高の家畜を巡る人間模様

最近、興味を持っているのがにわとりです。卵も鶏肉も食べられるもっとも身近な家畜として、いったいどのような進化を遂げてきたのか、あるいは人間社会とどういった関わりを持ってきたのか、その存在に魅了されています。

にわとりが先か、卵が先か?

「にわとりが先か卵が先か」という慣用句はよく用いられますが、実際に鶏卵産業では1羽当り年間約300個もの卵を産みます。偶然にも、日本人1人が年間口にする鶏卵の数は300個と言われています。1日に1個のペースで、体重約2kgのにわとりが約60gという身体の1/30の物体を生み出すのです。人間に例えれば、体重60kgの人が毎日2kgの栄養豊富な物体を体外に出すことになります。

驚くべきことに、にわとりはこの卵を生後150日程度から生み始めます。そこから2歳程度までの2年間、ずっと卵を産み続けるのが卵用鶏といわれる種類の運命です。つまり養鶏農家にとっては、にわとりという先行投資に対して卵という生産物を一羽当り18kg回収する事業と言えます。

たとえば養鶏農家が500円/羽でにわとりを仕入れ、1個20円の卵を約300個=6,000円売り上げるというのが事業モデルとなります。ROI=12という、驚異的な投資効率ですね(もちろん、飼料や設備投資もあるので実際にはもっと低くなります)。実際に現在、日本国内では約1億8千万羽の卵用鶏が飼われており、毎年1億羽が生まれ、死んでいく運命にあります。

生後50日で死んでいく苛烈なチキンレース

肉用鶏=いわゆるブロイラーとか若鶏と呼ばれるにわとりの世界はもっと苛烈です。この世に生を受けてたった50日=約3kgの体重になったところで出荷されるこの動物は、生産コストを極限まで圧縮した品種改良の結晶です。ある者はから揚げとなりある者はフライドチキンとなる、そんな運命を知ってか知らずか、日本国内では約3億7千万羽の肉用鶏が飼われ、毎年約6億5千万羽のにわとりが生まれ、死んでいっています。

肉用鶏の生産効率とはつまり、飼料を与えてどれだけ肉になるかということです。ある肉用鶏の品種では、1kgの飼料を与えると500gの肉となる非常に高い飼料効率を誇るものもあります(牛肉で10:1、豚肉で5:1と言われます)。極論すると、生まれて50日間の間に飼料6kgを与え、3kgの鶏肉を得るのがブロイラーという肉用鶏の事業と言えます。輸入飼料価格は年々上がっているとはいえ、現在の価格でも60円/kgの配合飼料から500円/kg程度の鶏肉を生産する、ROI=8の高い投資効率を誇っています。

にわとりは、アメリカからもたらされた

このように、経済効率性という観点では人間の都合に完璧に適合しているにわとりという鳥類は、グローバルに拡がったサプライチェーンによって支えられています。日本国内の養鶏場に入る雛鶏を生産する種鶏は、ほとんどはアメリカ企業によって押さえられています。また、にわとりが食べる飼料の大半はトウモロコシや大豆など、アメリカから輸入しているものです。

このような生産体制においては、基本的には土地代や人件費の安いアジア諸国に養鶏場を建てた方が合理的という判断となります。しかしそれによって、にわとりが育成される現場は消費者から遠く離れることになり、多くの消費者にとってはにわとりという存在よりも精肉された状態がスタンダードになっています。

実際に最近のニュースでは、大手ハンバーガーチェーンやコンビニに原材料供給していた中国の養鶏場においては、過剰な抗生物質や成長ホルモン剤の投与が問題となりましたね。また毛が生えないにわとりだとか足が4本だとか、様々な都市伝説が生まれる原因もこのサプライチェーンの巨大グローバル化です。

自給自足の第一歩は、にわとりを飼うことから

一方で田舎で自給自足の暮らしがしたい場合に、動物性タンパク質を摂取するためにはにわとりを飼うのが近道です。放っておいても卵を産み、年を取れば潰して肉にすれば良いわけですから、にわとり10羽も飼えば最低限の暮らしを送ることが可能です。つまり、グローバルなサプライチェーンに伍する経済効率性をド田舎のシンプルライフでも体現できる、その懐の深さこそが、にわとりが家畜の最高傑作たるゆえんです。

そして、飼料価格の高騰やサプライチェーンのグローバルな課題が起こったとしても、にわとりを飼うという営み自体はすぐに地産地消へとパラダイムシフトすることが可能です。空いている田畑で飼料米を育て、場合によってはハエやバッタのような昆虫を食べさせても卵を産み肉がつくにわとりは、やはりスーパー家畜なのです。


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