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カピバラ露天風呂に見るマーケティングの終焉

先日、伊豆高原にあるシャボテン公園に行ってきました。様々な土地に行くと必ず動物園に立ち寄る立場として、伊豆シャボテン公園で始まった「カピバラ露天風呂」の取組みは非常に興味深いです。

カピバラ露天風呂の歴史

1982年に開始されたシャボテン公園のカピバラ露天風呂、飼育員さんがお湯を使って掃除していたところ、お湯が貯まった窪みにカピバラたちが集まってきて暖を取っていたのがきっかけだそうです。

冬の寒さが苦手なカピバラと、伊豆の豊富な温泉源という要素が組み合わされ、露天風呂に入るカピバラたちが暖かいお湯に入ってうっとりするという可愛らしいコンテンツが生まれました。

旭山動物園の行動展示マーケティング

20世紀までは世界中の珍しい動物たちを檻の中に入れ、見世物として展示する方法が主流でした。それが変化したのは、旭山動物園での行動展示と呼ばれるやり方です。例えばシロクマならば、餌となる水面下のアザラシの視点で水中にダイブして泳ぐ様子を観られるようにするといった、ダイナミックな動物たちの動きを展示するものです。

これによって閉鎖寸前だった旭山動物園の来場者数はV字回復し、ペンギンの行進などのコンテンツを増やして冬季開園を実施、2006年には来場者数300万人を突破します。旭山動物園は海外観光客にとっても北海道旅行の目的地となるブランドになり、現在も様々な仕掛けや展示方法の工夫が実施されています。

マーケティングは誰かの意図を消費するもの

2017年は「ストーリー」型マーケティング終焉の年に

Forbes JAPANに掲載された記事を一読して、ナラティブ?とかあまり理解できなかったのですが、カピバラ露天風呂を体験することでその価値観の変容が腑に落ちました。

動物園はこれまでの分類展示にしても地理展示にしても、さらには行動展示においても、学術的意図と飼育者の立場から見せ方が規定されます。つまり、その動物がどんな生態で野生ではどこに暮らしているのかというストーリーを消費するのが主流でした。

旭山動物園でも、ライオンやトラ、クマといった肉食獣とゾウやキリンのような草食獣は分類別に展示されていますし、私たちもそれが当たり前のものとして動物園を訪れています。

園内をクジャクが闊歩するシャボテン公園

シャボテン公園では、そもそも肉食獣が展示されていないため園内をクジャクが自由に闊歩しています。サルやカピバラのところにも当たり前のように鳥たちが入り込み、インドに住んでいるはずのクジャクとアフリカにいるはずのキツネザルが共存しています。

さらにペットも連れ込めるため、犬のような肉食獣に対する鳥やサルたちの反応をリアルに体験することが可能です。それは子供連れやカップルといった人間たちの構成によっても異なる体験が楽しめます。つまり訪れる人々の属性に応じて、ハプニングのような体験価値が生まれる偶発性を売りにしているのです。

カピバラ露天風呂の全国対抗戦

カピバラ露天風呂に話を戻すと、冬の時期には柚子湯を実施しており、夏にはスイカ割り、秋にはハロウィンかぼちゃといった地域の農産物と組み合わせたプロモーションが実施されています。地域資源と組み合わせることで、さらに相乗効果が生まれる構図ですね。結果としてシャボテン公園の来場者数は30万人を突破し、周辺の道の駅なども開発が始まっています。

カピバラ露天風呂は実は全国に広がっており、伊豆シャボテン公園・長崎バイオパーク・埼玉県こども動物自然公園・那須どうぶつ王国・いしかわ動物園で「カピバラの露天風呂協定」が結ばれています。そして長崎県では、柚子湯の代わりに名産の柑橘類「ざぼん」が使われるなど、バラエティも出てきています。

カピバラの露天風呂(Facebookページ)

来訪者の訪問価値を最大化するナラティブ体験

果たして、カピバラ露天風呂を最初に始めたときに、こういった状況に発展することは想定されていたのでしょうか?もしカピバラの展示だけをしていたら、飼育者の想定以上には何も起こらなかったはずです。カピバラを露天風呂に入れて、それが人気を博すとともに来場者との触れ合いから偶発性が生まれます。

そして、地域の農産物などの資源と組み合わせることで季節性や地域独自性が加わり、インスタ映えのような近年の風潮によって体験価値が最大化されるというナラティブの構造が出来上がっています。施設内に閉じることなく、学術や提供者側の思惑に縛られることなく、オープンに価値を訴求することで様々なイノベーションが起こるのです。

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