大学で地域づくりを教える難しさ
昨年より、三重大学においてフィールドワーク等を通じて学生たちに地域づくりを指導しています。三重大学を含む地方国公立大学は、G型L型の議論を通じてL型志向つまり地域貢献を強める方針を明らかにしております。
地域貢献大学を目指す
地方国公立大学は、医学部、農学部、工学部などの理系と、教育学部、文学部、法学部といった文系の学部を持っているところが多く、地域に対して貢献できる専門分野は幅広いと言えます。とくに医師や教員といった、地域住民の生活を支える専門職を育成する目的学部である医学部と教育学部は、地域の医療や教育を支える自負を持っています。
これら目的学部とは別に、農学部や工学部ならばフィールドワークや地場産業との協働研究、文学部や法学部ならば郷土史編纂や地域芸能の維持、自治体との連携といった枠組みが考えられます。実際に個々の教員や研究室単位では、様々な地域活動や研究プロジェクトが進められています。しかし、大学全体となるとなかなか学部を超えての協働的な取組みや、自治体との協定以上の枠組みを形成していくことは難しいのが実情です。
どうして大学で地域づくりを教えないのか
とくに過疎地域のような、人口減少や産業衰退によって地域づくりが求められている現場に対しては、大学が入り込む余地が少ないと感じています。例えば民俗学を専門とする文系教員や、農学を専門とする理系教員(私も農学系出身です)であれば、郷土愛に基づいた祭りや伝統芸能といった独自要素であったり、自然環境と共存する地域の生業といった分野に関心を持ちやすいと言えます。
一方で、他の教員は地域づくりと専門分野が直結するわけではありません。また大学教員自身も、50代以上は田舎出身の人もいますが、40代以下は都市部出身者が多く、偏差値教育を経て大学受験し学位を取った人ばかりです。つまり原体験として地域での暮らしを持っておらず、専門分野に基づいたジョブ型雇用の立場でもあるために故郷を離れてポストを得ているといった立場の人たちが大半となっています。
故郷を捨てた後ろめたさ
このように田舎で暮らしたこともなければ、自らの故郷を捨てて専門分野のポストを選んだ大学教員たちに、果たして地域づくりを教えることは可能なのでしょうか?私自身の経験から言えば、それは当事者意識に起因する問題であり、田舎に暮らしていてもまったく地域づくりに関心のない住民もいれば、故郷が衰退しまくっている地域づくりのプロフェッショナルだって存在します。
学生たちに当事者意識や主体性が大切だと説くのに、地域づくりをテーマに据える必要はないでしょう。むしろ専門分野における指導やゼミ活動で、研究分野に対する関心を育み研究内容をまとめていくプロセスこそが、もっとも有効な指導法だと感じます。そしてこのプロセスを応用して、いつか地域づくりというテーマに踏み込んでいく若者が出てくれば言うことはありません。