鬼舞辻無惨とドルの相似性
クライマックスを迎えている大人気漫画『鬼滅の刃』、今秋には劇場公開も控えており、まだまだ人気は衰えそうにありません。この漫画においてラスボスに位置付けられているのは、鬼舞辻無惨という鬼を生み出した存在です。
自らの血を分け与え鬼を増やす
鬼舞辻無惨は、自らの血を分け与えることで鬼を増やす特性があり、無惨の血が濃いほどに強い鬼となります。配下に十二鬼月という、階級制の精鋭部隊を抱えており、上弦と下弦に分かれそれぞれ壱~陸まで計12名の鬼が存在しています。
このような設定は、往年の少年漫画にあるどんどん強キャラが登場しながら主人公たちが成長していくというストーリーに沿って激闘を繰り広げていきます(なぜか下弦の弐~伍は無惨に粛清されてしまった)。これら配下の鬼を増やしていきながら、人間を狩ってその血を得ていくことで無惨はどんどんパワーアップしていくわけですね。
資本主義社会におけるドルの存在
さて、この鬼滅の刃での鬼舞辻無惨を知って思い浮かべたのが国際通貨としてのドルの存在です。まったく別の事象のように思えますが、とても似通っているように感じるのです。そもそもどうしてドルが国際通貨になったのかと言えば、一昔前は原油などを購入するのもドルならば、日本から自動車など加工した工業商品を購入するのもドルだからです。20世紀初頭には工業化の先頭を走っていたアメリカが、加工貿易におけるデファクトスタンダードを握ったことが国際的な決済にドルが使われるようになった理由です。
やがて、工業生産の現場が日本やアジアに移り、その原材料を直接他の地域に買いに行くような状況下においても、その決済にはドルが使われることになります。そのうちにアメリカ以外の国においてもドルが流通し、外貨準備高などドルを貯め込むようになることで、アメリカ国内から常にドルが流出していくことになります。つまり、アメリカは慢性的な貿易赤字を抱えることになるわけですね。
鬼舞辻無惨とドルの関係
鬼滅の刃では、鬼舞辻無惨から血を分けてもらった鬼たちがそれぞれの意思で活動します。そこに存在するのは力を背景とした絶対的な支配であり、無惨はそれぞれの鬼たちがどこにいて何をしているかを血が濃ければ濃いほど把握することができます。ある意味、現在の世界においてもドルが国際通貨の地位を守っているのはアメリカの圧倒的軍事力があるからでしょう。
十二鬼月の上弦のような強い鬼たちは、さらに自らの血を分け与えることで鬼を増殖することが可能ですし、さらに強くなるために無惨から血をもらうことを望むようになります。そのため、無惨は常に新たな人間を狩って血をつくり続ける必要があり、その捕食と血を分ける行為が無惨にとっては負担になります。
ドルも海外で使われれば使われるほど、アメリカ国内から流出していって大きな貿易赤字と軍事費等の財政赤字という双子の赤字を抱え込むことになります。日本をはじめとした同盟国は、ドルを介した貿易が拡大すればするほど経済成長するので、よりドルを求めることに合理性があります。
資本主義のメタファーとしての鬼滅の刃
つまり自己成長する資本主義社会においては、ドルを刷れば刷るほど経済成長するわけですが、アメリカ国内に限定すれば双子の赤字の増大によってインフレが起こる可能性もあり、またリーマンショックのような自己崩壊が起こるリスクと隣合わせになってしまうことになります。
鬼舞辻無惨にとっても、たくさんの鬼をつくって血を分け与えることで人間界を制圧することも可能でしょうが、実は彼にとってはその目的はあまり優先度が高くありません。むしろ永遠の生命と太陽光を克服するという、持続性の方に関心があると言えるわけで、その意味においては鬼たちは漸増していきつつも秩序を維持し続ける方が合理的なのでしょう。