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福島原発付近の放射性物質はどうなったのか

数年前、福島第一原発から30km圏内にある森林組合の復興をお手伝いしました。2011年の原発事故以降、宅地や農地は除染が進められてきました。黒いフレコンバッグが積まれた光景に見覚えのある人もいるでしょう。

除染土が集められたフレコンバッグ

この除染土は約30万㎥にのぼり、福島県内の同一自治体の公有地等に保管されています。一部、県外に運び出されたものについては地下に厳重保管されるといった形で、線量をモニタリングしつつ管理されています。

放射性セシウムはどうなったのか

原発事故以降、よく話題に上がっていたのが放射性セシウム(Cs137)です。原発から多く放出された放射性セシウムの半減期は30年で、人体への影響も懸念されています。セシウム自体はアルカリ金属であり、水などに非常に反応性が高いために、雨水によって流出しやすい性質があります。そのため、初期に飛散したヨウ素や放射性セシウムの大半は降雨にしたがって河川を経て海洋流出したものと考えられます。つまり、震災・原発事故直後には海洋に多くの放射性物質が流出しました。

放射性セシウムは土壌中では粘土層などに吸着される挙動をとります。粘土層は地下50cm以下の深層土壌にあり、そこで徐々に放射能を減衰させていく挙動をとります。放射性セシウムであれば半減期30年程度かけてゆっくりと線量が低くなっていきます。現状、これら深層土壌の放射性セシウムを掘り出すことは量的にも労力的にも現実的ではありません。

手付かずになっている森林

放射性物質の降り注いだ森林は除染対象ではなく、長い間手付かずで放置されてきているのが現状です。とくにキノコや山菜類といった特用林産物には放射性物質が多く含まれる傾向があり、最盛期には全国1位の出荷量を誇った福島県の原木椎茸は壊滅的な打撃を受けました。

森林においては、スギやヒノキなど常緑針葉樹と、ナラやクヌギなど落葉広葉樹では放射性物質が貯留するスポットが異なります。とくに3月という落葉期に事故が発生したということもあり、常緑針葉樹では葉や樹皮、落葉広葉樹では土壌に放射性物質が多く含まれるという調査結果があります。

この森林にまつわる放射性物質を除染するためには、樹木を伐採して燃焼し、草木灰に減容して隔離保管するといったやり方が考えられます。つまり、バイオマス発電のようなエネルギー利用をしつつ除染していくのが合理的です。

福島県内で起こった地域差別

このような除染活動を進めるに当たって、福島県内では原発から30km圏内のエリアから他の地域に除染土や伐採樹木を運び出すことに対して反対運動が起こりました。相対的に放射線量が高い(と思われる)エリアから、リスクの高い放射性物質を受け容れることは難しい住民感情でしょう。

このような合意形成の困難さによって、森林を除染することは後回しにされ、結果として福島県の森林は放置されました。すでに伐期を過ぎ、鬱蒼とした状態になっているわけですが、山主が避難生活から不在になっていたり、伐採しても二束三文にもならない(むしろ費用をかけて処理しなければならない)状況なのです。

実は2000年代まで線量が高かった日本海側

これら放射性物質の影響を調査する中で、先行研究が国内に存在しました。1970~2000年代にかけて、新潟県や山形県など日本海側を中心に放射性セシウムが多く観測されるホットスポットが局地的に存在したのです。その原因は中国内陸部から飛来する黄砂であり、チェルノブイリ事故や恐らくはゴビ砂漠での中国の核実験等の影響によって放射性物質が多く飛散したと考えられます。

もちろん国はこの先行的な放射能汚染を把握しており、地元自治体などを通じてホットスポットを除染するといった取組みを進めてきました。それとともに、放射性物質の土壌や地下水に対する影響が先行研究としてある程度蓄積されてきたわけで、地域住民に対してもさほど悪影響を及ぼすことはありませんでした。

放射性物質を巡る現時点での考え方

まとめます。放射性物質については、2011年3月の震災・原発事故直後にヨウ素やセシウムを含む様々な各種が多く飛散し、それらが雨水から河川を通じて海洋に流出したものと考えられます。渓流水や海水はもちろん現在もモニタリングされており、また水産物を中心に定期的に線量検査が実施されています。今年は1例のみが自主基準を超えていたとして出荷停止措置になっています。

除染土は多くが隔離保管されていますが、森林はほぼ手付かずとなっており、木材として利活用する見通しも立っていません。技術的には減容隔離できるものも出てきていますが、政治的・地域感情的な課題で動けない状態になっています。

現在は福島県が最も放射性物質の蓄積量が高いのですが、過去には日本海側で放射性物質の蓄積量が増加した経緯もあり、それらの先行研究を経て地域住民の健康リスクに影響のない形で処理するやり方は確立されています。

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