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『ザリガニの鳴くところ』からアメリカ大統領選挙を読み解く

現在、アメリカ大統領選挙の真っただ中であり、トランプ大統領の再選か、あるいはバイデン候補が政権を奪取するのかに注目が集まっています。鍵を握るのは「ホワイト・トラッシュ」と呼ばれる白人労働者階級であり、そのほとんどはトランプ大統領を支持していると言われています。

反ソ⇒反日⇒反中の系譜

白人労働者階級は古くはヒルビリーと呼ばれ、工業地帯であった中部を中心に保守層を形成してきました。『ヒルビリーエレジー』という本にその暮らしぶりは詳しく載っています。ベトナム戦争後のカウンターカルチャーの勃興が西海岸を中心に興り、それらがシリコンバレーなどのIT革命に繋がる流れがあった一方で、東海岸ではWASPの伝統的な産業が維持されてきたアメリカの分断は、この中部保守層をどのように取り扱うかによってその趨勢が決まると考えられています。

東西冷戦から始まり、とくに貿易赤字が大きかった時代には反日運動が盛んになり、現在は反中運動といった形でのナショナリズムを喚起するのが特徴ともいえ、その矛先は労働力として競合するアフリカ系やヒスパニック系にも向けられています。これら分断と差別の歴史こそが、アメリカという国の多様性であり人種の坩堝と呼ばれる宿命なのでしょうか。

社会派サスペンス?ロマンティック小説?

アメリカ文学の1つの到達点と呼ばれる2020年最傑作『ザリガニの鳴くところ』は、そのタイトルの通り生態系豊かな湿地帯が舞台となっています。そこで孤独に暮らす少女カイアが主人公であり、少ないながらも彼女を取り巻く人々との関係性が自然環境の中で形成されていきます。

彼女はホワイトトラッシュと呼ばれる、白人労働者階級からも転落したホームレスのような存在で、村の人々からは「湿地の少女」と呼ばれ遠ざけられます。その小さな村において殺人事件が起こり、彼女はその犯人として疑われるところから物語はスタートします。

私たちの社会を取り巻く固定観念

このアメリカや日本を含む先進国においては、すべての子どもたちが教育を受けるもの、貧困や差別は取り除くべきもの、そして貧しく恵まれない者たちは善良であり富む者たちに搾取されているといった、ある種の常識的価値観が備わっています。それらは文学作品を読む際には前提条件として、最終的なカタルシスを得るための予定調和が期待されます。

一方で現実社会はそれほど単純ではなく、日本のドラマなどで描かれるようにいじめられっ子が奮起していじめを解決する、悪事を働く権力者を懲らしめるといった勧善懲悪の物語が決して当てはまるわけではありません。ある意味、ずっと虐げられ続けてきたホワイトトラッシュの鬱屈がトランプ現象を生み、さらなる差別や分断へと繋がっているのが現在のアメリカでしょう。

「湿地の少女」カイアの視点からこれら人間社会の矛盾を眺めつつ、したたかに自分の幸せを見つけていくその姿は心強くもあり、儚くもあります。

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にゃんだ?
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1977年シアトル生まれ。地域イノベーション企業家。林業合コン、棚田deセグウェイ等の過疎地ビジネスを経て、行政トップの右腕、大学教員と産官学を経験。犬猫が地域に生き残る寛容な社会を目指すネコウヨです。

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