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「能登半島は見捨てるべき」なのか

元日に発生した能登半島地震、半月が経った現在でも水道や道路のインフラは寸断され、救助活動もままならない状況で復興などはさらに先の話になっています。一部では能登半島のような過疎地域に対して、多額の復興予算をかけてインフラや防潮堤などを整備するのはコスパが合わない、といった東日本大震災のときにも聞こえた議論が出始めています。

能登半島ほど生物多様性を象徴する場所はない

個人的に、能登半島は数回訪れたことがあり、とても気に入っています。まず食べ物がとても美味しい、というのも日本海の海の幸であるカニやブリ、サクラマス、もちろんマグロといった寿司店でも主役を張るクラスの外洋性魚介類と、能登湾の豊富なプランクトンによって育まれた牡蠣やカレイ、甘エビなどの内水面に棲む魚介類が両方楽しめるチートぶりです。

能登の豊かな海を再現したのとじま水族館。ここのジンベエザメは死んでしまった。

また陸に目を向けても、半島の地勢において独自に栽培されてきた能登野菜と呼ばれる在来種や能登牛のようなブランド牛をはじめとした畜産業、また近年では主に高級スイーツで使われるようないちじくや栗も栽培されており、東京都心の高級店で取り扱われている食材が実は能登産だった、なんてことは枚挙に暇がありません。それも能登空港から朝採れのものを直接出荷できるためであり、実は小規模多品種な第一次産業では国内屈指の生産地となっています。

能登を代表する景勝地・白米千枚田も大きな被害を受けた

首都圏を守るために投じられている予算規模

首都圏でも近年は集中豪雨など災害リスクが高まっていると指摘されています。とくに首都直下型地震が発生すれば被害規模は能登半島地震の比ではないわけで、被災者が多くなれば救援活動や避難が滞るのは東日本大震災での首都圏交通網麻痺や電力供給不安の経験からも容易に予測できます。

首都圏を守るために、利根川東遷をはじめ江戸時代から様々な水害対策が施されてきています。利根川源流域には数多くのダムが建設され、八ッ場ダムは計画当初から2.5倍の5,300億円余りに予算が膨らむ事態となりました。近年話題となったところでは首都圏外郭放水路(約2,300億円)など、水害時には稼働するが普段は基本的には無用の長物となっているインフラがたくさん建設されています。東京都では毎年約3,000億円規模で都市強靭化のインフラ再整備を進めています。

戦後80年で首都圏に投下されたインフラ整備費用は、数兆〜数十兆円規模と考えられるわけで、近年ではたとえば首都高速山手トンネルを整備するには1億円/mのコストがかかっています。一般的な道路敷設費用は10万円/m程度、青函トンネルは約1,000万円/mでしたから、首都圏におけるインフラ整備のコスパはかなり悪いと言えるでしょう。

東日本大震災復興ではいくらかかったのか

2011年の東日本大震災からは10年以上が経過し、インフラ整備を中心とした復興事業は概ね完了しています。総額は約31兆5,000億円に達しており、うち原子力発電所を含まない道路や防潮堤などのインフラ整備には約18兆円が投じられています。当然、ほとんど需要のなくなった道路や誰も住まなくなった集落に防潮堤を建てているケースもありますが、過去に整備されてきたインフラを復旧させるとこれぐらいの予算規模となります。

能登半島については、東日本大震災に比べて被害を受けた地域が限定的だったこともあり、インフラ被害額は1兆円に満たないと試算されています。もちろん輪島沖の海底が隆起した場所の使い方や、防潮堤をどこまで整備するべきかといった議論はこれからでしょう。まだ復興予算の多寡を述べるタイミングではありませんが、東日本大震災と比較すればそれほど予算規模は大きくならないと考えられます。

ここ百年の化石燃料前提の僻地の考え方

能登半島がどうして僻地と言われるのか、それはクルマ主体の移動・輸送社会になったためと考えられます。ガソリンを使って太平洋側から人や物資を運ぶ上では不利な地勢ですが、江戸時代には海運で栄えた地が輪島でした。北前船にとっては、蝦夷や東北から物資を運ぶ中で能登半島は風除けや風待ちに最適な港があり、また加賀前田家など重要な顧客と取引できる場所だったのです。

北前船で栄えた黒島地区の廻船問屋「角海家住宅(国重要文化財)」は今回の地震で全壊

つまり海運の時代に能登半島はかなり重要な役割を担ってきており、もし今後再び海上輸送が活発になれば脚光を浴びる可能性もあります。実際に2024年問題と呼ばれるトラック輸送の運転手不足に対して、海上輸送は見直されてきています。とくに日本海側では洋上風力発電の開発が進められており、それらでつくられたエネルギーを水素に変換して船で運ぶといった技術は実用化が目の前に迫っています。

とくに鉄鋼業では、水素を使った製鉄法が確立され日本製鉄がUSスチールを買収するなどドラスティックな再編が進んでいます。従来の豪州などから鉄鉱石を輸入して車などに加工して販売する、という太平洋ベルト工業地帯が優位だった昭和期のモデルからは構造転換が進んでいます。鉄鋼をリサイクルする過程で水素を活用することでCO2を出さない、そんな脱炭素時代においては鉄鋼のストック量世界一の中国が一大市場となります。日本海側での海運が注目されるべきタイミングに来ているのです。

生物多様性の力を活かした創造的復興を

能登半島の魅力はなんといっても生物多様性の豊かさであり、その象徴的な場所として世界的にみても稀有な存在です。人口が減る中で自然環境の循環を上手く活かしたグリーンインフラの考え方で、社会資本の再整備を進めていくべき地でしょう。

上下水道が寸断したのであれば分散型のろ過システムを活用した水利用を検討しても良いですし、コンクリートによる防潮堤を整備するよりも海岸林と湿地帯を涵養することでハイブリッドインフラ化を図るといった考え方もできます。当然、日本が世界に先駆けて実用化を図っていける分野でしょうし、海外の持続可能な発展に貢献できる技術を開発できる機会になり得ます。能登半島を見捨てるどころの話ではまったくないのです。

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