日本の合わせ鏡としての破壊神=ゴジラ
アメリカ・ハリウッド版ゴジラが今夏に公開されます。3Dで観る焼き払われるシーンが非常に楽しみです。もしかしたら、破壊願望があるのかもしれません。そんなこんなで、ゴジラ映画は欠かさず観ているわけですが、ゴジラほど日本の世相を反映してきた怪獣は他にはいないのではないでしょうか。
“水爆大怪獣”ゴジラの誕生
ゴジラがデビューしたのは戦争の記憶も新しい1954年、今から60年前のことです。当時は東西冷戦による軍拡競争がはじまっており、その年にはビキニ環礁での第五福竜丸事件が起こっています。第五福竜丸は現在、東京都夢の島公園内に展示されています。制作側の意図としては、被爆国としての原水爆反対といったメッセージを込めて、行き過ぎた人間文明を戒めるというテーマでつくられたようですが、いずれにしても空襲や原爆を体験した人々約1000万人(当時の人口の10%)がこの映画を観たというのは驚くべきことです。
ゴジラは品川から上陸し、新橋~銀座~永田町を破壊して回り、上野~浅草を経て隅田川から東京湾に消えましたが、そのルートは東京大空襲の際のB29編隊の動きを再現したものです。恐らく当時の観客はその事実に気付いていたでしょうし、この映画が反戦の意思を示すものであることに共感して、多くの人々がアメリカの核の傘に疑問を持ち始めるようになりました。
アメリカ対日本の代理戦争?キングコングとの戦い
ゴジラシリーズで最も多くの観客を動員したのが、『キングコング対ゴジラ』です。キングコングといえばアメリカ特撮映画の雄であり、それが日本代表のゴジラと戦うというのはまさに夢の対決です。とはいえ実際には、1930年代につくられた『キングコング』後にはヒット作は出ておらず、ゴジラと対決後の1976年にリメイクされたようです。
この『キングコング対ゴジラ』以降、大怪獣ゴジラと敵の怪獣がマッチメイクされるフォーマットが確立されます(2作目『ゴジラの逆襲』ではアンギラスと対決しましたが、噛ませ犬的な存在でした)。その後はモスラやキングギドラ、ラドンといったお馴染みの怪獣たちが登場するようになり、ゴジラも反戦の破壊者というよりは様々な侵略者から日本を守る正義のヒーローへと変貌していきます。
1960年代はちょうどベトナム戦争が深刻化し、日本国内でも反戦や安保闘争が表面化した時期です。反戦の象徴であったゴジラは、このような政治的企図とは距離を置くようになり、純粋な娯楽映画として勧善懲悪路線を歩むようになるのです。ゴジラは子どもたちの味方であり、その象徴としてゴジラの息子・ミニラが登場するようになります。
高度成長期の宇宙開発と公害とゴジラ
ゴジラは勧善懲悪路線を歩むようになりましたが、人間の行ないをすべて認めていたわけではありません。科学技術が進歩し、人々の暮らしが便利になっていく中で、その弊害としての公害問題を取り上げたのが『ゴジラ対ヘドラ』です。田子の浦のヘドロから生まれたヘドラがどんどん巨大化し、新たな能力を獲得していく様はシニカルですが、地球防衛軍との協力で何とか倒す中で、公害問題の深刻さにも触れるといった教育的要素が散りばめられていました。
そしてキングギドラやガイガン、メカゴジラといった外敵が宇宙から飛来するようになります。当時はウルトラマンシリーズのTV放映が始まり、一大特撮ブームが訪れていましたが、ゴジラシリーズは苦戦するようになります。毎週のように外敵を倒していくウルトラマンの物量作戦に対して、ゴジラの映画という長さは対抗しきれなくなり、『メカゴジラの逆襲』という1時間ちょっとの作品を最後に昭和ゴジラシリーズは終わることになります。
宇宙という未知のフロンティアに対して、恐竜が水爆によって巨大化したというゴジラのフォーマットは追随していくことができなくなりました。それに代わってウルトラシリーズというニューヒーローがTVというメディアを中心に席巻していくことになるのです。スポンサーを募って番組制作をして、CMや商品のキャラクターとしてヒーローが登場していくコマーシャリズムの台頭に、無敵を誇ったゴジラが敗れ去ることとなります。
平成ゴジラシリーズにおけるゴジラの再生
1984年にゴジラは復活します。個人的にもリアルタイムに観ていたのはこの辺りからとなります。ゴジラは大人も楽しめるリアルな怪獣映画として、再び人類の敵として君臨するようになるのです。自衛隊の科学技術の粋を集めてつくられた対G兵器の数々や、ゴジラの遺伝子を受けて変質した強敵の怪獣たちは、時にゴジラを苦しめ撃退します。
とはいえゴジラは絶対悪ではなく、人類も善の立場ではありません。人類側の思惑やしがらみによる綻びがゴジラに復活の機会を与え、ゴジラの熱線は難敵を次々に撃破していきます。この平成ゴジラシリーズは割と好評で、バブル景気もあって常に300万人程度の観客数を集める人気がありました。それを受けて、ハリウッドからオファーが来るのです。
ゴジラじゃない、トカゲだ!
1998年に、ハリウッド版『GODZILLA』が公開されました。『ジュラシック・パーク』などの大ヒットを受け、パニック映画が流行する中で、日本の誇る大怪獣ゴジラがアメリカに輸出されるという大ニュースに、多くのゴジラファンは期待に胸を膨らませました。しかし、そこに登場してきた生物はゴジラとは似ても似つかぬオオトカゲであり、熱線も吐かずに俊敏に飛び回るその姿に、多くのゴジラファンはがっかりしたのでした。
それでもこのハリウッド進出に気をよくしたのか、ゴジラシリーズは新たな展開へと突入します。ミレニアムシリーズと呼ばれる再度の世界観のリセットによって、CGと実写を組み合わせた新しい特撮が試されました。結果としてこのミレニアムシリーズは大ゴケして、最後の方は『とっとこハム太郎』などの子ども向け作品と一緒に上映されることとなったため、世界観の設定が中途半端になっていったのでした。
今度こそ、破壊神GODZILLAの復活を
2014年、海外で復活するゴジラに対して期待することは、「荒ぶる神」としての恐怖と畏敬です。我々日本人が経験したことは、東日本大震災による津波と原発事故という大災害であり、もはや現実が特撮を超越したものです。それでも、再び人類の文明社会を破壊しに来るゴジラを待ちわびている自分がいます。ゴジラによってカタルシスを得ることを望んでいるのです。
1954年の初代ゴジラが戦争と原爆の記憶も新しい東京を焦土と化したように、2014年のゴジラでも原発が怪獣に襲われ、放射能汚染という恐怖が人間社会に蔓延していきます。我々が背負うことになった十字架を、図らずもゴジラという存在を通して世界がどのように観ているのか、どんな表現になるのかをこの目で確かめたいと思います。
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