政府を影で動かすロビイスト
2017年、もっとも面白かった映画です。邦題『女神の見えざる手』はあまりイケてないのですが、間違いなく満足いく脚本の作品です。様々な伏線が貼られており、それが回収されるクライマックスまで息を着かせぬ展開は見事です。派手なアクションも爆破シーンもありませんが、007顔負けのスパイ諜報戦や冷静沈着な主人公が時折見せる人間的な弱さなど見どころもたくさんあります。
アメリカにおける銃規制問題
日本では銃を保持すること自体が銃刀法で禁じられているため、あまり実感ができないですが、アメリカにおいては銃を保持する権利は憲法に認められた自由として取り扱われます。歴史的にイギリスからの独立戦争によって自由を勝ち得たアメリカ国民にとっては、自由に武器を手にする権利は建国の理念に通じるアイデンティティなのですね。
しかし現実問題としてアメリカでは銃乱射事件が頻発し、2017年10月にはラスベガスで史上最悪の59名死亡500名以上が負傷するという乱射事件が起こっています。ISなどテロリズムの脅威も増す中でどうして銃規制の議論が前に進んでいかないのか、この映画を観ると巨大な政治献金を行なう全米ライフル協会の存在や、銃規制を保守系政治家と組んで妨害する大企業のやり方が明らかになります。
元弁護士の脚本家、驚異の処女作
上司や部下との確執、人をとことん利用し尽くす冷徹さ、世論の動きに合わせて起こる大事件、、この脚本を描いたのが今回初めて映画の脚本を手がけたジョナサン・ペレラ氏であることにも驚かされます。情報の出し方が緻密というか、あーこの伏線がここで回収されるのね!とまた見返したくなる展開に唸らされます。
しかも安易な勧善懲悪ではなく、主人公もそれなりに悪いし、そのために背負った十字架に対して悩み苦しんでいたりもします。それでもキャリアや利益ではなく、自らの信念のために仕事する姿は魅力的に映ります。そして主人公を演じたジェシカ・チャスティンの役柄へのハマり具合も見ものです。『ゼロ・ダーク・サーティ』などインテリ役が似合う女優さんですね。
日本においてロビイストは存在し得るのか?
政治家に対して政治献金や投票行動によって圧力をかけ、自らの目的や信念を実現していく仕事としてのロビイストは、果たして日本でも必要な存在なのでしょうか?日本ではそれほど政治献金が個人レベルで一般的ではないことと、そこまで政治イシューとなり得る法案が存在しないという面があって、ロビイストが活躍する土壌は整っていないように感じます。
一方でベンチャー起業家やNPO経営者といった自らの事業を通じて社会課題解決を進めている人々が、業界団体を結成して政治的なポジションを形成していく動きは近年見られつつあります。また実は広告代理店がかなり政治に近づいてキャンペーンの仕掛けを行なうといった役割を担っています。東京オリンピック誘致の際には、IOC委員など海外キーパーソンに対してのロビー活動が行なわれたことも明らかになっています。
エンターテイメントとしての社会派映画
どこまでが策略でどこまでが偶発的に起こったものなのか、観ているうちにどんどん引き込まれていくことに気づきます。そして分かりやすい悪徳政治家をやり込める大逆転のカタルシス、最後まで気を抜けない内容に仕上がっています。セリフ回しがなかなか難解なので付いていくのも大変ですが、あーそうだったのか!と膝を打つ展開になるので是非とも前半から頑張って観てみてください。