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帰省する田舎のないロスジェネ世代

私は両親ともに東京出身で、両方の祖父母も東京在住だったので、この時期に帰省するという概念がありません。子どもの頃は夏休みに田舎に行って、こんがり黒くなった同級生を羨ましく思ったりしたものです。そんな都下の新興住宅地で育ち、受験や進学によって同質化していった結果、田舎のない境遇の同世代は周囲にも結構います

そんな田舎ロスな人たちは、やがてロスジェネ世代と呼ばれるようになりました。コンプレックスから地域に興味を持ったり、実際に移住して農的暮らしなんてものも試してみました。いきなり中山間地域や離島といった過疎地域に移住する極端な行動をとるのも、ロスジェネ世代の特徴です。そこで無農薬栽培の農業を始めてみたり、狩猟や林業などを暮らしのDIY的に取り入れるのもやりがちなことですね。

ロスジェネ世代が田舎に見出した希望

近年、流行しているパーソナルファブリケーションのような生活要素に関するものづくりの発想は、田舎にいけばお年寄りの知恵を聞いたり、実際に手足を動かしながら技能を身に着けていったりという実践をすることが可能です。身の回りのあらゆる要素を消費によって成り立たせていた都市出身者にとっては、見聞きすることすべてが未知の体験であり、好奇心を刺激することです。

一方でそれらDIY的な体験は、素人の域を出ないレベルです。むしろ、プロとしてそれで生計を立てようとすれば、過疎地域ではあまりにも経済の密度が小さすぎて難しいでしょう。ある意味、都市圏と過疎地域を行き来するライフスタイルにおいて、新たな消費パターンと位置付けることができます。

いま、注目の田舎はどこか?

そういった意味でも、都市圏近郊の田舎で面白いことをするのが最近の関心事であったりします。中山間地域や離島といった典型的過疎地域で、都会的価値観や消費社会から距離を置いて自給自足の暮らしをすることは美しいし、その決断は非常に尊重すべきものだと思います。

一方で誰もがそんな決断ができるかと言えばそうではなく、また再現性が低いために大きなムーブメントになることは在り得ません。むしろ都市郊外から放射状に伸びる鉄道や高速道路を通じて、週末に気軽に通えるような田舎こそが、新しい価値観を生み育てる場所になるのではと感じています。

東京都内にもある田舎暮らし

先日、奥多摩に行ってきました。JR中央線で新宿駅から約2時間、1,200円ほどで行ける終着駅の東京の西の果てです。そこは間違いなく東京都なのですが、険しい山が連なり緑の木々が視界の大部分を支配する、間違いなく田舎です。奥多摩駅前すぐのところにも空き家があり、活用される時を待っています。

この場所は東京・森と市庭という会社が管理しており、リノベーションしながら都市住民と地域住民の交流拠点として活用していく方針だそうです。同様に奥多摩地域には数多くの空き家が点在しており、様々なアイディアを活かせる土壌があります。とくに、ダム建設で一時期賑わった経緯もあって、奥多摩湖に面した民宿など非常に魅力的な建物が手つかずとなっています。

田舎の地域資産に、都市のファイナンスを組み込む

この森と市庭の会社の成り立ちが面白いのは、地元の名士から山林を現物出資してもらっているところです。昔はそれこそ江戸から高度成長に至るまで、東京という都市の発展を支えた奥多摩林業でしたが、今では二束三文の価値しかありません。そこで、岡山県西粟倉村などで森林資源の活用を行なった実績のある株式会社トビムシが入り、東京R不動産チームネットといったソフト的な不動産活用のノウハウを持つ会社が出資することで、森林資源を軸にした新たな都市木造の価値創造を図っていこうとしているのです。

つまり、この奥多摩周辺の空き家のリノベーションに、奥多摩産の木材を活用することで地産地消の不動産再生が可能となります。100万円程度の予算でリノベーションできるとなれば、都市の人たちも別荘みたいなイメージでお金を出してみようと思うのではないでしょうか。週末、気軽に通える田舎を奥多摩に持つというのは有意義な選択肢でしょう。JR、東武、西武、東急、京王、小田急、京急など、都心から放射状に伸びる沿線に住む人たちすべてにとって、新しいライフスタイルを提案できる可能性があります。

実は資産をたくさん持っているロスジェネ世代

実際に私のようなロスジェネ世代は、都市近郊に自分の家と親が住む実家、さらには祖父母が住んでいた家というように資産としての不動産はたくさん持っているケースが多いです。でも住めるのは一軒であり、祖父母が亡くなったり両親が年老いてくるにしたがって、空き家が増えてくるのは明らかです。

それでも企業などに勤めていれば与信力もありますから、ローンを組んでそれらの家をリノベーションしていくこともできます。そして他の人に賃貸したり、シェアハウスやAirbnbのようなシェアリングエコノミーに組み入れていくことで、資産の流動化が図れるようになります。不稼働資産からキャッシュフローを生み出す、手堅い不動産投資と言えるでしょう。

奥多摩のように気候風土が近いところの木材を使うと、家が長持ちします。今では外国産の木材を接着剤で貼り合せた合板が主流ですが、20-30年もすると接着剤が剥がれてきて床や壁がベコベコになってしまいます。木は呼吸する素材ですから、やはり日本の木材の方が日本の家には合っていますし、長い目で見れば80-100年持つ家をつくっていった方が将来世代に資産を残せます(現存する古民家は地産地消の木材でつくられている)。

田舎のないロスジェネ世代が田舎暮らしを取り入れる

平日は都市に住み、週末は都市近郊の田舎に滞在する。そんなライフスタイルを取り入れていくことが実は、ロスジェネ世代にとっては現実的に田舎暮らしを実践していく手段のように思えます。

我が国において、空き家のような不動産資産が流動化せず、世代間移転が進まないことが1つの大きな課題となっています。ひとまず私自身も実例をつくりながら、価値観の変化に合わせたライフスタイルを体現するべく、動いていきたいと考えています。

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