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農村回帰の今昔物語

立場的によく、「都会と田舎どっちが良いですか?」というようなことを聞かれます。和食と洋食を比べるようなもので、気分によって変わる程度の話なのですが、そうやって聞かれるとどっちかを選ばなければいけなくなるような気分にさせられますね。

まぁそんな与太話程度であれば良いのですが、どこかの場で議論したりオンラインで意見を主張するような場合には断定的な物言いが強いということもあって、「都会は疲弊している」「田舎は廃れる一方だ」といった過激な内容に発展してしまうこともあります(個人的には苦手です)。

左翼・反政府活動の終着点としての農村回帰

いま、もっとも話を伺ってみたい方がいます。鈴木文樹さん。何に興味があるかというと、たまごの会という今から30年以上も前に茨城県旧八郷町に出来た農村型コミューンの話です。この話の前提になるのは、彼の書いたBlog記事「たまごの会のはなし」  というシリーズになります。ちょっと長いのですが読んでみてください。

たまごの会とは、リベラルな思想を持つ人たちが「安全な食べ物を自分たちでつくろう」という社会運動の一環として、1974年にスタートした取組みです。今でこそ無農薬、有機、地産地消、オーガニックといった言葉は一般的になりましたが、高度成長真っ只中でこのような活動に飛び込む人たちには当然、安保闘争や成田空港滑走路問題といった反政府活動を進めてきた経歴の持ち主が多かったようです。

やがて自分たちの理想郷としての農村型コミューンをつくろうと、茨城県八郷町に入植し田畑を耕し牛豚鶏を飼い始め、自産自消の活動をはじめます。そこには地域に実際に住みついて農場で共同生活を送る「農場派」と、普段は都市で暮らしながら週末などに自分たちの食べ物を作りに来る「契約派」という、大きく2つのグループができるようになります。

都市農村交流が内包する課題

個人的にも経験があるのですが、実際に地域に移住した人たちと都市に住みながら通う人たちでは、どうしても温度差が発生します。この鈴木文樹さんのコラムでも、「農場派」と「契約派」の分裂の顛末が描かれていますが、どちらも都市出身者としての考え方が原点にあります。ポスト都市型生活を送るためには、都市の存在を意識し続けなければならないジレンマが存在するのです。

そして彼らが変えるべき対象は果たして都市なのか、田舎なのかという問題もあります。社会運動を通じて都市を変えようとしてきたけれども理想像が見えないために田舎に移住してきた人たちもいれば、いまの生産者と消費者が分断されてしまっている農業を変えたい人もいます。そしてこの考え方自体が都市住民的であり、そこに自覚的かどうかも問われます。

平成の農村回帰ブーム?

いま再び、農村回帰ブームが起こっていると言われています。最近、移住を志すような若者はあまりイデオロギーや政治的主張は持っておらず、むしろ都市の消費生活に嫌気が差して自らの手で生産を試みたいと田舎に向かうような人たちが多いです。それはそれで1つのイデオロギーとも言えますが、変革のベクトルが社会ではなく自分に向いている人たちが多いという印象です。

一方で田舎の側はその昔、イデオロギーにまみれた若者たちを受け入れてきた歴史を引きずっているところが多く、新規移住者に対しても何かしらの政治的偏向があるのではないかと警戒することもあります。とくにオウム真理教の事件があって以降、農村型コミューン=新興宗教といったイメージも出てきています。

さらに、有機農業や循環型社会といった都市住民にとっては当たり前の感覚が、田舎においては社会運動の流れと受け取られるケースもあります。最近でいえば原発反対のような意見表明するようなことも、田舎の人たちにとってはエキセントリックに感じられることです。

大都市圏近郊の農村が面白い

個人的に感じているのは、首都圏でいえば北関東や甲信越など、大都市圏近郊の農村地帯が面白いということです。高速道路や鉄道によって1-2時間で大都市にアクセスできてしまうような、便利になってしまったがために人口が流出した経緯のある地域です。

そこでは都市と農村の二拠点居住といったライフスタイルもできそうですし、農地や空き家といった土地利用の観点でもいろいろチャレンジが可能です。まさに都市と田舎の両方良いとこ取りをできる環境があると感じています。

たまごの会が切り拓いていった茨城県八郷町も、いまでは有機の郷づくりといったコンセプトで地元のJAなどを巻き込んだ活動に発展していっています。この辺りの歴史的経緯を伺いつつ、現代風の都市と農村の上手い関係性を構築していけたら良いと考えています。


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