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北条早雲を大河ドラマにしてほしい

日本三大梟雄といえば、北条早雲・斎藤道三・松永久秀と言われています。うち、斉藤道三と松永久秀は今年の大河ドラマ『麒麟がくる』で登場しており、悪人とは言えないような人間味溢れるイメージで魅力的なキャラクターに仕上がっています。

捏造された乱世の梟雄イメージ

斎藤道三にしても松永久秀にしても、後世に創作された軍記物などの影響で悪役として描かれており、それらが近年の古文書研究が進むにしたがって違った実像が明らかになってきています。大河ドラマもこれら時代考証を基にしてシナリオがつくられている関係で、『国盗り物語』『太閤記』といったいわゆる司馬史観からの脱却がみられます。

北条早雲もその一人であり前半生は不明な点が多いものの、小田原城奪取や伊豆討入りといった自身の野望からのし上がっていったイメージが流布されてきました。実際には今川氏の有力家臣として頭角を現しながら、関東公方や上杉家の内紛によって荒廃した関東地方において、国衆たちの支持を集めていったというのが実像でしょう。

戦国大名たちとその軍配者たち

富樫倫太郎著の『北条早雲』シリーズは、幕府の有力役人であった伊勢家の傍流として生まれた若き伊勢新九郎が、京都や駿河を舞台に様々な経験をしていきながら、やがて関東を平定していく物語が描かれています。備中荏原郷で育った正義感の強い新九郎は、盗賊討伐や応仁の乱で荒廃した京の状況を見ながら、やがて悪人となることを決意します。

搾取や自身の利害しか顧みない旧来の秩序に甘えた既得権益層から、困窮する庶民たちへの再分配を行なうために武力を行使し、徳治を以って領国の繁栄を支えていくことで関東を平定していった後北条家三代の物語はもっと知られて良いと思います。そして、その関東制圧の戦略を差配した軍配者(軍師)の存在についても注目しているのが非常に面白いです。さらに、この軍配者シリーズには武田信玄・上杉謙信という北条家のライバルも扱っているので、戦国時代における戦略論を理解するのにうってつけの内容となっています。

乱世こそ必要な仁と徳

旧来の秩序が陳腐化し、人材や経済の流動化が急速に進んだという意味においては、現在の日本を含む世界を取り巻く現状はまさしく乱世でしょう。ヒエラルキーや儀式によって形成されてきた構造は変化に弱く、その中でたくましくしたたかに生き延びていくために必要となるのは、もはや機能しない古いシステムを刷新し、新たな秩序を形成していく取組みでしょう。

京の街で困窮する流民たちを見て、彼らを救うためには自分自身が出世して理想の国造りをするしかないと決意し、そのために旧秩序を破壊する悪人となった北条早雲は、まさに今の時代に必要とされる大河ドラマの主人公なのではないでしょうか。

中央集権体制で地方の隅々まで計画的に発展させるといった明治以来の統治システムが破綻していることは明白です。戦国大名のように分権型社会でそれぞれの地域資源の価値を最大化していきながら、災害や疫病といった脅威から領民たちを救っていった英傑たちの物語を、今こそ描いてもらいたいです。

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