「習慣」は移動を経て「文化」となる
ある地域において習慣的に食べられていたものが、都市や別の地域に移動することで1つの食文化として認められることがあります。有名なところで言えば、北海道の道南地域で食べられていた「いかめし」です。戦中戦後の食糧難の時代に、北海道で豊富に獲れたイカを調理容器兼用で中にもち米を詰めて食料としたのが始まりだそうです。
同様に碓氷峠越えのお伴だった「釜飯」も有名ですね。現在では新幹線が開通して数分で通過してしまいますが、昔は横川~軽井沢間の峠越えは汽車の付け替えが必要で、駅弁が良く売れたと言います。そこで保温性に優れ見た目にも楽しい釜飯が考案されたと言います。
ともに1人の事業者の素朴な発明が、今ではクックパッドに多数のレシピが載るほどになっています。とくに釜飯は益子焼の容器をどうやってリサイクルするか、様々なアイディアが出てきて面白いですね。
21世紀・大移動時代に突入
そして21世紀に入り、現在の私たちは空前の大移動時代に突入したと言えます。新幹線やLCCなど、20世紀に計画されてきたインフラ網の整備が結実し、安価に高速移動できる利便性を享受できています。そして移動が高頻度になれば、私たちは自らの暮らしを相対化して他地域の習慣と比較する機会を得ることになります。
九州の醤油は甘いのだとか、北海道では茶碗蒸しや赤飯に砂糖を入れるといった、他地域の異質な習慣は移動を経て食文化となります。実際に九州醤油はスイーツにかけるソースといった形で応用されています。
同様にファッションの分野でも、海外から持ち込まれたゴムサンダルという素材と草履が融合して、あのビーチサンダルが生まれました。ゴム草履と呼ぶのはその名残ですね。
イノベーションは既成概念の組み合わせ
こうして考えると、大移動時代にはこのような既成概念を組み合わせたイノベーションが多数生まれるのではないでしょうか。
そしてそのためには、素材となり得る足もとの習慣を丁寧に見直す必要があるでしょう。大量消費社会において画一化されてしまった既製品ではなく、どうして地域独自の文化が育まれたのかという視点が求められます。
人類の進化は二足歩行による移動の自由を得て加速したと、進化論では言われています。文化的多様性こそが人類が地球に生き残ってきた鍵であり財産なのです。