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京アニ事件が死刑執行されない事情

2019年7月に発生した京都アニメーション放火事件は、36名死亡という近年稀に見る凄惨な殺人事件です。犯人として逮捕された青葉真司被告は、全身火傷で死の淵をさまようものの、医師団の懸命な治療によって一命を取り留め、多くの被害者遺族と裁判で向き合っています。2024年1月には京都地裁により死刑判決が下され、被告側弁護人から即日控訴を受けて大阪高裁に舞台が移される見込みとなっています。

日本の司法が揺らぐ、相次ぐ冤罪事件

警察から送致された事件を調査する検察、そして量刑を判断する裁判所は日本の司法を守る法の番人です。しかし、この法治国家の根幹を司る機関では、冤罪というあってはならない間違いが頻発しているのです。

1つは「袴田事件」です。1966年6月に静岡県で発生した放火殺人事件で逮捕された袴田巌被告に対し、警察の証拠物鑑定が不十分でありさらにそれに基づいた検察調書が自白内容と異なるといった、杜撰かつ恣意的な捜査が明らかになっています。1980年に死刑判決が最高裁より出されましたが、弁護団の再審請求によって2023年10月より再審公判が始まっています。

もう1つは「足利事件」です。1990年5月に栃木県で発生した女児誘拐殺人事件で、MCT118型と呼ばれるDNA鑑定の結果、菅家利和さんが逮捕されました。警察から自白を強要され、近隣での女児誘拐殺人事件も自らの犯行と認める供述を取られる等によって2000年に最高裁から無期懲役判決を受けました。ところがこのDNA鑑定の不正確さが指摘されて改めて最新の方法で鑑定した結果、遺留物に付着していたDNAは菅家さんとは別人のものだと明らかになります。2009年に再審され、菅家さんの無罪が確定しています。

新展開があった「飯塚事件」

このMCT118型DNA鑑定では、取り返しのつかない死刑執行がありました。「飯塚事件」と呼ばれる、1992年2月に福岡県飯塚市で発生した女児誘拐殺人事件で、久間三千年元死刑囚が犯人として逮捕され、1999年に福岡地裁から死刑判決を受けました。その後、2001年福岡高裁、2006年最高裁と上告を繰り返すも訴えは棄却され、2008年10月に死刑執行されました。

死刑確定後、一般的には10年程度の執行までの期間が空くのが通例でしたが、たった2年という異例のスピードでの死刑執行は批判も多く、また相次いで目撃証言の不備や杜撰な捜査内容が明らかになるなど、2024年4月以降に久間元死刑囚家族からの再審請求を受理せざるを得ない状況となっています。

国際的にも死刑制度はオワコン

現在、OECD加盟の先進国において、死刑制度があるのは日本と韓国だけです。さらに韓国でも20年以上死刑は執行されていません。もはや日本のみがこの国際的な死刑廃止の潮流から取り残されていると言えます。

国民感情として、凶悪犯罪者に極刑を望む声はまだまだ多数派を形成していると考えられる一方で、現実問題として死刑執行することは政治判断として難しくなっています。とくに前述した冤罪事件の判決が覆った場合、日本の死刑制度が大きく揺らぐことは想像に難くありません。

新たな医療技術の確立に役立った青葉被告

京アニ事件の場合、皮膚の9割以上に火傷を負った青葉被告に対して、自家培養皮膚移植という最新の医療行為が試され、成功したことで別の生命を救う結果に結び付いています。2023年に鳥取大学医学部付属病院において、重度の火傷を負った乳幼児に対してこの自家培養皮膚移植が役立ち、これまで他者からの皮膚移植が難しかった小児の治療ができるようになりました。

これはもちろん青葉被告の功績というよりは、犯罪者に対しても懸命の治療を行なった医師団の熱意と責任感に拠るものですが、たとえ死刑囚であっても社会の役に立つ方法があることを示唆するケースでもあります。人体実験のような人道にもとる行為はできませんが、軒並み高齢化している死刑囚に対して、がん治療や遺伝子治療の治験を進めていくのは有効な選択肢です。

青葉被告に残された時間

この京アニ事件と同様に犯行が明らかで大量殺人が行なわれたケースとして、秋葉原通り魔事件が挙げられます。2008年6月に7名を死亡させる事件を起こした加藤智大元死刑囚は、罪状が明らかな状況で2011年3月に死刑判決が出て、その後最高裁まで抗告するも2015年2月に死刑判決が確定しています。そして2022年7月に死刑執行され、約14年の服役生活を終えました。

加藤元死刑囚の前には100名以上の死刑判決を受けた確定者がいましたが、この社会的影響を鑑みた異例のスピードでの執行に対して、法務大臣が臨時記者会見を開く等の対応が見られました。青葉被告はこれ以上の社会的影響を与えたものと考えられますが、果たして今後どのように国民の価値観が変化していくのでしょうか。

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