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「消滅自治体」は恐くない

「消滅自治体」という言葉が日本中に衝撃を与えています。うちの地域は消滅するのか、と驚かれた人たちも多いでしょう。日本創成会議から発表された資料では、20歳~39歳の若年女性の人口をキーファクターとしており、2040年までに若年女性の人口が半数以下となる地域を「消滅自治体」として定義しています。(PDF資料1:人口再生産力に着目した市区町村別将来推計人口について

「消滅自治体」の人口規模

実際に消滅自治体のデータを詳しく見ていきましょう。(PDF資料2-1:全国市区町村別「20~39歳女性」の将来推計人口)自治体の規模別に若年女性減少率を見てみると、人口の大きな自治体はだいたい-20~40%のところに収束していく一方で、人口が少ない自治体にはプラスのところから-80%に達するところまで、様々な状況があることが分かります。

つまり、小規模な自治体においては何らかの地域環境や独自の施策によって、若年女性の増減に影響が出ていることが予想できます。そして、それらの要素は「消滅自治体」になるかどうかを左右する要素と言えるのではないでしょうか。

これら「消滅しない自治体」と「先端消滅自治体」のそれぞれの特徴を分析していくことで、若年女性が住みやすく子育てしやすい地域環境を明らかにしていきたいと考えております。もちろん現時点では、データを分析してそれぞれの自治体が持つ特徴について仮説を並べただけであり、それらを検証していくのは今後の研究テーマとなります。早速、「消滅しない自治体」ランキングを見ていきましょう。

「消滅しない自治体」ランキング

石川県川北町(+10.9%)⇒年少人口19.5%に目標設定、3万円家賃補助

秋田県大潟村(+8.0%)⇒干拓の村で、大規模専業農家が多い

富山県舟橋村(+7.9%)⇒富山大と「人口問題プロジェクト」実施

沖縄県北大東村(+6.7%)⇒EEZを抱える重要な離島で建設需要が多い

横浜市都筑区(+1.1%)⇒港北ニュータウンなど、新興住宅地が多い

沖縄県渡名喜村(±0%)⇒本島近くの離島、高校まで医療費無料

福岡県粕屋町(‐0.3%)⇒福岡市のベッドタウンで交通の便が良し

沖縄県多良間村(‐1.1%)⇒サンゴ礁の島でダイビングや肉牛生産が盛ん

沖縄県宜野座村(‐1.6%)⇒米軍演習場があり、プロ野球キャンプも有名

鳥取県日吉津村(‐2.4%)⇒米子市に囲まれており、イオンが中心にある

「消滅しない自治体」は何が違うのか?

上記「消滅しない自治体」ランキングを概観すると、①合併せず小規模自治体 ②独自の地域優位性がある ③安定した仕事が多数存在 ④住宅取得のしやすさ ⑤教育・医療等子育て優遇 といった要因によって、子どもを生んで育てやすい地域環境が存在することで出生率が上がり、自然増加していることが理解できます。

逆説的に言えば、独自の経済的自立と自治を図れるだけの地域経済基盤と地勢的優位性が存在しているからこそ、合併せずに小規模自治体として独自路線を歩むことができたとも言えます。そしてオリジナルな施策によって地域環境を整備していくことで、出生率が向上していったということでしょう。

続いて、真っ先に消滅するであろうと予測される「先端消滅自治体」について、同じくランキングで並べてみました。

「先端消滅自治体」ランキング

徳島県神山町(‐72.4%)⇒「創造的過疎」を掲げ、社会増加に転じる

鳥取県若桜町(‐72.4%)⇒交流人口拡大のための街並み再整備

北海道夕張市(‐72.4%)⇒全国初の破たん自治体、近年の人口は安定

京都府笠置町(‐72.9%)⇒京都市南部の山間地、文化財多数

奈良県曽爾村(‐73.1%)⇒日本で最も美しい村に加盟、名水百選

京都府南山城村(‐73.8%)⇒定住促進30万円、全戸光ファイバー完備

奈良県吉野町(‐74.0%)⇒世界遺産を抱え、桜の名所など観光強化

青森県今別町(‐76.2%)⇒北海道新幹線の駅が開業予定

奈良県川上村(‐79.5%)⇒川上住まいるネット(空き家バンク)が盛ん

群馬県南牧村(‐80.8%)⇒高齢化日本一で田舎暮らし体験をアピール

「先端消滅自治体」に見る、危機感の共有

この「先端消滅自治体」ランキングを見て、何を感じましたか?徳島県神山町は、アーティストインレジデンスやIT企業のサテライトオフィス誘致で知られ、2011年にはついに転入者が転出者を上回る社会増加となった、今最も注目を集めている過疎地域です。同様に、真っ先に消滅するであろうと予測された各地域は、それぞれユニークな取組みがすでに行なわれています。

これら「先端消滅自治体」における特徴は、 ①人口減少を与件として受け入れ ②高齢化による自然減よりも交流・移住による社会増を目指す ③地域住民にも危機感を共有 ④地域独自の魅力を深掘りしていく取組み といった、まったく過疎を諦めていない粘り強さを感じることができます。

結論:「消滅自治体」は問題提起に過ぎない

「消滅自治体」に関するデータを分析して、各自治体の取組みを概観してみると、自然増減がスコアに対する大きな要因となっていることが理解できます。一方で移住施策などを進めて社会増加を目指す自治体のスコアが悪くなる傾向となっています。

そしてどちらかといえば出生率や社会保障といった自然増加に関する要因は国家政策であり、移住や雇用創出といった社会増加に関する要因は自治体独自の施策となるため、「消滅自治体」というカテゴライズで自治体が実施できることは実は少なくなっています。

「消滅自治体」というインパクトの強い言葉で、地域における人口動態という問題提起を行なうことには成功しましたが、各論での地域を見ていくと本来的な課題が見えなくなってしまう恐れがあります。

隠れ「消滅自治体」を探せ

また、平成の大合併などで政令都市などに吸収された旧町村においては、隠れ「消滅自治体」としてその動向が見えなくなってしまっている地域も存在しています。むしろ危機感が分からなくなってしまい、行政機関も遠くなって急激に過疎化が進んでいるエリアもあります。

「消滅自治体」として名指しされた地域は、実はユニークな取組みがすでに実践されており、危機感も住民に共有されているためにさほど問題ないと言えます。一方で大都市圏の中には、危機感の薄いまま一気に高齢化が進んだり、出生率が低く抑えられているエリアが偏在しています。

今後、この問題提起を受けて実際にどのように一つひとつの地域が対処し、一人ひとりの住民が行動すれば良いのか、具体的な地域の取組みを探っていくことで可視化を進めていきたいと考えております。引き続き、研究を進めていきます。

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