『ガンダムUC』に見る昭和リバイバル
『ガンダムUC(ユニコーン)episode 7「虹の彼方に」 』を観ました。“ラプラスの箱”と呼ばれる、宇宙世紀の始まりの際につくられた謎を解き明かすために、バナージ・リンクスという新世代ニュータイプとミネバ・ザビというヒロインが、赤い彗星シャアの再来と言われるフル・フロンタル率いるネオ・ジオン残党と地球連邦政府との思惑の狭間で本質を見つけるために動いていきます。
ミネバ・ザビというヒロイン
そう、あのミネバ・ザビが大きくなって、自らの役割を担おうと危険も顧みずに地球に降下したり、連邦軍に捕われたりするのです。一年戦争ではビグ・ザムを駆るドズル中将の裏でアクシズに避難した乳飲み子で、ZとZZではハマーン・カーンの傀儡となっていたあのミネバ様がご立派な姿になられたというのは、ガンダムファンにとっては感慨深い出来事なのです。
同様にepisode 1-6では、バナージが初めてユニコーンガンダムに搭乗するシーン、赤い彗星が3倍の速さで接近するシーン、地球降下で重力に引っ張られるシーンなど、昔からのガンダムファンにとってはお馴染みの名場面のリバイバルがこれでもかと言わんばかりに出てきます。そして、かなり旧式になってしまった一年戦争時のモビルスーツも多数登場したりして、そこでこの作品とは古き良きガンダムをオマージュしてつくられたものだと理解できます。
ガンダムUCに登場するMSたち http://youtu.be/sw-STcF1YKc
現実社会を映す「ニュータイプ」論
これら、ガンダムシリーズにとって重要なテーマの1つとなるのが、人類の革新としての“ニュータイプ”の存在です。宇宙に進出したスペースノイドが獲得した第六感のような、新たな環境に適応することで得られるセンスのようなものを指します。アムロ・レイ、カミーユ・ビダン、ジュドー・アーシタというニュータイプの系譜に、バナージ・リンクスが新たに加わります。
一方で現実社会の変遷とともに、ニュータイプの在り方も微妙に変わってきます。1979年という冷戦と経済発展が前提の時代においては、地球の人口が100億人以上に達するのは時間の問題だと言われていました。ニュータイプは高い戦闘能力を有する宇宙空間に適応した新人類として描かれていました。宇宙移民という選択肢は21世紀以降の世界秩序を語る上では、当時は現実性のあるものとして受け止められていました。
だんだん先進国における少子高齢化と人口減少が始まり、地球の人口もある程度は抑えられるということが研究で明らかになります。すると、ガンダムシリーズにおけるニュータイプの描写も、格差社会において虐げられた人々の希望という形に変わってきます。特権階級によって腐敗する地球連邦に対して、レジスタンスとして自主権を取り戻していく様は、戦争からテロリズムへと人類の戦いの在り方が変遷していく様子を反映しています。
ニュータイプはすでに現実に
そして我々は気づいています。ニュータイプの存在がなくとも、千里眼的に地球の裏側で起こっていることを知ることができるし、様々な出来事をリアルタイムで認知できる世の中が到来していることを。そう、インターネットという存在こそが、ニュータイプ論が勃興した20世紀とは決定的に違う社会情勢をつくりだしています。
マニュアルをさらっと読んだだけで最新鋭のモビルスーツを動かせてしまう超人的な個の圧倒的な存在ではなく、各人が積み重ねた戦闘データを解析して生み出した小さな群衆の力を合わせた叡智こそが社会を変えていくのでしょう。子どもだった我々が大人になって直面した現実社会の厳しさとリアルは、ニュータイプの存在を経験的にファンタジーの世界に留めるように作用します。
どうして今、ガンダムUCなのか
このようなガンダムシリーズを観ていた子どもたちも現実社会で大きくなりました。団塊Jr.世代と呼ばれるメインターゲット層は30-40代と、消費の面ではかなり重要な顧客層で経済力もあるならば、そこを狙わない手はありません。これまでもスピンオフする形で、様々なガンダムの局地戦でのコンテンツ作品はつくられてきましたが、宇宙世紀の正史としてニュータイプという存在を扱った作品は、『逆襲のシャア』以来と言えるでしょう。
当然、ガンダムシリーズにおいては付帯ビジネスが多数存在します。プラモデル、音楽、小説、漫画、ゲームなど、コンテンツから派生していくことによって広がる世界観には大きなビジネスチャンスがあるわけで、実際に『ガンダムUC』では、ウインド戦略と呼ばれるコンテンツ業界のこれまでの常識を打ち破る危機感を持って、イベント上映や有料配信、DVD販売というチャネルを組み合わせていたことが理解できます。
今回のガンダムUC episode 7 「虹の彼方に」劇場公開でも、様々なイベントや限定仕様のマーケティングが行なわれています。あの頃、プラモデルやグッズを買いたくて我慢していた資金力のある団塊Jr.世代に対して、「見せてもらおうか、おっさんになった君たちの財布とやらを」と言わんばかりに、27,000円もするプラモデルや10,000円の限定Tシャツが並べられているのです。
他コンテンツでも見られる昭和リバイバル
このようにガンダムシリーズで見られるような昭和リバイバルは、他の懐かしの作品でも展開されています。パトレイバーは実写化され、ゴジラはハリウッドでリメイクされ、聖闘士星矢はフルCGで映画化され、Jリーグは公式サイトで選手にキャプテン翼の必殺シュートを再現させるなど、明らかにおっさんになった団塊Jr.世代を刺激するコンテンツが目白押しとなっているのです。
極め付けはディアゴスティーニに北斗の拳が登場することでしょう。定年退職した人が楽しむものだと思っていた定期購買サービスが、もはや団塊Jr.世代を狙ってきているのだと思うと、今後はさらにこのシリーズに少年ジャンプやマガジン、コロコロコミックといった当時のコンテンツが入ってくることは容易に想定できます。
CtoC時代におけるコンテンツの楽しみ方
コンテンツホルダーはビジネスとして、これら昭和リバイバルによる商品化と再利用を進めれば良いでしょう。一方で個人としては、たとえば3Dプリンタなどを活用したプラモデルの独自の改造や観葉植物などを組み合わせたジオラマづくりなど、大人になったからこそできる楽しみも増えてきています。
また動画や音楽コンテンツについても、以前とは違って再編集・構成を容易にできる時代ですので、二次利用によるオンライン公開は増えていくでしょうね。これらはコンテンツホルダーにとってもメリットのある展開ですので、様々なバリエーションがあっても良いと思います。例えば、アムロやシャアの名言をいろいろなシーンで活用できるようになれば、おっさんたちは歓喜するに違いありません。
いずれにしろ今回の『ガンダムUC』では、ラプラスの箱の謎を通じてニュータイプ論という、ガンダムの世界観を巡る見解に対して一定の着地点が見えて、我々ももう一歩進むべきだという可能性を感じることができます。次世代が正しく判断してくれるのであれば、現代を生きる世代はなるべく彼らの邪魔をしないようにならなければいけない。そういった教訓が得られるスペース・オペラと言えるでしょう。