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ツシマヤマネコを保全すべき理由

横浜ズーラシアで、ツシマヤマネコの赤ちゃんが生まれたということで観に行ってきました。ツシマヤマネコは絶滅危惧種に指定されており、日本では対馬のみに100頭程度が生息する希少種です。今回は人工授精による繁殖が成功し、今後の人工繁殖計画に向けてこの赤ちゃんの成長が重要な研究材料となります。

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ツシマヤマネコは山奥ではなく里にいる

ツシマヤマネコはその名からは山奥にいそうなイメージですが、実は田畑や人間の暮らす里周辺でネズミやカエルといった小動物を獲っていた存在です。田畑が耕作放棄され、森林が針葉樹中心の単相になるといった人間の自然利用状況の変化を受けて、その数を激減させているといった現状にあります。

他にも車が増えて交通事故に遭うケースや、イエネコの移入によって種の混雜や伝染病の蔓延といった影響をダイレクトに受け、ツシマヤマネコの暮らしが脅かされているという状況は人間と野生生物とがいかに共生するか、という21世紀の大きなテーマに当てはまります。

ツシマヤマネコは指標種

ツシマヤマネコは対馬の生態系頂点に位置しており、その生存が脅かされているということは対馬の生態系バランスが崩れている状態を意味しています。もちろん、複雑な生態系をすべて理解できるわけではありませんが、人間を含めた自然環境の資源循環や命のやり取りが不健全になっているのは、その地域がサステナブルではないということでしょう。

つまり、対馬においてツシマヤマネコが生きていける自然環境を取り戻すことが究極的には必要であり、多様な野生生物が地域において生息している状態を再創造するために、人間社会も含めたつくり直しが求められます。田畑を再生し、森林を多層化するといった地道な取組みと、それらをサステナブルにする社会としての経済活動をいかに維持するかが課題でしょう。

これまでの野生動物繁殖は鳥類がメイン

日本では、環境省を中心にトキやコウノトリなど、人工繁殖による野生放鳥が進められてきた経緯があります。絶滅危惧種を増加させる上で、人工繁殖によってある程度の個体数を確保するのは有効な一方で、遺伝子の多様性を担保するために異なる血統を持つ個体同士をかけ合わせるといった計画が必要となります。

鳥類については、卵が生まれた段階で孵卵器を使って温度管理すれば、ある程度は生育できるのですが、哺乳類の場合は授乳や生活能力を養うといったプロセスが必要となるため、親とのコミュニケーションが重要となります。そういった面がツシマヤマネコをはじめとした哺乳類の人工繁殖にとって障害となってきたわけで、今後これらのプロセスもイエネコの胎内を活用するといった手法も考えられます。

哺乳類繁殖のパイロットモデルとして

ツシマヤマネコの人工繁殖が成功すれば、国内ではイリオモテヤマネコやアマミノクロウサギといった、離島の固有種の保全についても応用が可能となります。海外でもトラやライオンなど、ネコ科の動物を中心にそのノウハウを活かすこともできます。

またさらに遺伝子技術が進歩すれば、すでに絶滅したニホンオオカミやニホンカワウソといった動物の遺伝情報から蘇らせるといった夢物語もあり得るかもしれません。そういった絵空事を現実のものとするために、まずは現存する希少種をしっかり守り、増やしていく地道な取組みが重要であることは言うまでもありません。

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