東急ハンズをカインズが呑む、「都心の郊外化」
年の瀬に大きなニュースが飛び込んできました。東急ハンズをカインズが買収するということで、既存店舗はどうなるのか、"東急"ハンズという名前自体どうなるのかといった話題が出てきています。
都心の百貨店は郊外型ブランドの草刈場
少し前には大塚家具がヤマダ電機に買収されるなど、都市圏郊外が出発点だった小売チェーンが都心に進出するケースが目立ってきています。とくに外食産業では、スシローやくら寿司といったロードサイド型の回転寿司チェーンが都心のビル・テナントに業態を変えて進出してきています。
都心型店舗の旗艦たる百貨店も同様で、今ではユニクロやニトリといった郊外型ブランドの大型テナントを誘致することで何とか売り場を保っているような印象です。もはやハイブランドの商品や外食をするために都心に行くといった行動は過去のものとなりつつあり、最先端のライフスタイルは実は郊外にある状況になっています。
DIY文化の草分けがその使命を終えるか
東急ハンズといえば、まだDIYという言葉が生まれる前からちょっとした工作やクラフトをしたいときに足を運ぶ場所でした。小中学生の頃は学校の自由研究などで工作キットを探しに東急ハンズ池袋店に足を運んだ思い出があります。
一方で割と日常的にDIYをするようになった現在では、部材から工作器具、生活用品まで何でも揃うカインズに車で行くことが増えました。逆に都心の東急ハンズでは、電車に乗って手で持ち帰る程度の買い物しかできないために足が遠のいてしまっていました。そういった客が大多数になってきたからこそ、東急ハンズの売上げが落ちて今回の買収劇に繋がったでしょう。
郊外型ライフスタイルを構築するベイシアグループ
このカインズを含むベイシアグループには、ワークマンという近年はアパレル業界においても注目される存在が居ます。もともとは土屋家という同族経営だったベイシア、カインズ、ワークマンを分社化し、各業界向けに細分化させていったというコングロマリット経営が特徴的です。
ワークマンもブルーカラー向けの作業着から脱却し、アウトドアや機能性衣類という新しいニーズに応えるような商品開発には定評があります。共通するのは、既製品を売るだけではなく自社のマーケティング機能を強化しながらプライベートブランドの品数を充実させていくような研究開発能力でしょう。
元ヤンからリタイア層まで、多様性を持つ郊外
実際にカインズやワークマンを利用する客層を観察すると、若い世代が連れ立って来ていたりシニア層がふらりと寄ったり、多様な人々が利用していると理解できます。都心型店舗では建物面積の制約上、ある程度セグメントを絞ったラインナップにせざるを得ないところ、郊外型店舗ではそれら多様な需要を総取りして誰もが楽しめる場作りがなされています。
既製品を売るだけであれば、もはやAmazonや他のホームセンターといった競合との消耗戦になっていくでしょう。実際に東急ハンズが優位性を保てなくなったのも、ショールーミングのような試供品を提供する状態になってしまったからです。自宅まで配送してもらえるような実需をオンラインに代替されるのは当たり前です。
そこに対してプライベートブランドの充実やライフスタイルの提案といった、実店舗ならではの強みを生かしているのがカインズでありワークマンでしょう。エントリー層向けのDIYセミナーをカインズ工房でやったり、本来のプロ向けの店舗をワークマンプロとして出店したり、様々な取組みを恐らくは店舗の現場主導で試行錯誤しながら回しているからこそ、細分化されたニーズに応えられる店が出来上がっているのです。