松岡茉優の才能を観る『勝手にふるえてろ』
映画『勝手にふるえてろ』を観ました。活躍が目立つ注目の若手女優・松岡茉優さんの初主演映画であり、原作は芥川賞作家の綿矢りささんです。
松岡茉優さんが演じるのは、恋愛経験の少ない女性が中学時代の片想いの相手(=イチ)と、生まれて初めて告白されたけどあまり好きではない相手(=ニ)の間で脳内三角関係を繰り広げるという、かなりクセの強い役柄です。
とくに、アップテンポな前半から根暗な後半に移行する中で、主人公はキャラチェンジするわけですが、リア充とかインスタ映えなど無縁なオタク系女子の日常を演じられるのは松岡茉優さんくらいだろうなぁ、と感心しながら見入ってしまいました。
自意識過剰な思春期を卒業するタイミング
男女問わず経験があると思いますが、他人はそれほど自分に対して興味がない、自分が思っているほどに相手には伝わっていないといった思春期にありがちな自意識過剰は、恋愛や就職といった通過儀礼を経ることで恥じらいとともに無くなっていきます。
おっさんになると普通に「メシ食いに行こう」とか「連絡先教えて」とか、社交辞令もありつつ気軽に言ってしまいますが、思春期にはそれすらも積極的にできない、変に思われたらどうしようといった自意識が顔を出します。そんな甘酸っぱい感覚を久しく忘れていたので、松岡茉優さんの狂気と紙一重の演技っぷりに引き込まれます。
映画を演出するマニアックな嗜好性
映画の中で、主人公がアンモナイトのような古生物に関心を持つシーンが出てきます。Wikipediaに載っている絶滅危惧種のレッドデータリストを思わず読んでしまうという嗜好は、個人的にも共通する部分があります。最近もウナギの絶滅危惧種としての状況を調べていたら、実はスズメも危ないとかマニアックな知識を身に着けてしまいました。
そしてそういった嗜好の共通する相手に好感を持つというのは、人間本来の性質とも言えるわけで、この映画においても様々なフックが用意されていることに気づかされます。ある時は占いにすがってみたり、ある時はガンガン音楽をかけながら料理したり、そんなあるある体験を演出として使うことで、観客は引き込まれていく仕掛けです。
演技派若手女優としての不動の地位
昨今の映画は、美しく可憐な主人公がイケメン同級生と恋愛して云々といった、少女マンガ原作のものが増えている印象です。そういった作品において重要な脇役として、ライバルや優等生といった役どころを演じることの多かった松岡茉優さんですが、この映画は初主演というよりも、ある意味チャレンジングな役を見事に演じ切っている演技力が評価される作品でしょう。
未来の大女優が転機となる作品として記憶に残るとともに、内容自体もシリアスというよりはユーモラスに進んでハッピーエンドという安心して観られる内容となっています。ハリウッド映画では表現できない、これぞ日本映画という仕上がりになっていますのでお勧めですよ~。