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琵琶湖に浮かぶ「猫島」だった、沖島の未来

琵琶湖にある有人離島・沖島をご存じでしょうか?もともとは琵琶湖水運の拠点として重要視され、やがて石工職人たちが住み着き、現在は漁業を中心に200人余りの島民が暮らしています。そしてこの沖島は、某写真家によってたくさんの猫たちが暮らす「猫島」として全国的に有名になりました。

春の沖島に渡る

桜の咲く直前、春の訪れを待つ沖島に上陸しました。近江八幡駅から町営バスで小一時間程度の堀切港に向かい、そこから1時間に1本程度の定期船に乗って10分で到着します。その気になれば京都・大阪の大都市圏から日帰りできてしまう距離感です。この日もハイキングツアーのような軽装の団体客が多く島に渡っていました。

三輪自転車が集まっている

島に上陸すると、たくさんの三輪自転車が目につきます。島内に自動車はなく、そのためそれほど音のしない静寂さが第一印象でした。島自体はコンパクトで、さらに集落となる港周辺に住宅が集まっており、ヒューマンスケールな細い路地が入り組んでいます。どことなく懐かしさを感じる素朴な雰囲気が、のんびりしたい気分にさせます。

基本的に野菜類は自給自足。猪がいるため獣害対策も。
沖島小学校。島外から通う生徒もいる。

沖島から猫がいなくなった

そんな感じで島をフラフラとしている中で、とあることに気が付きます。猫がまったくいない!「猫島」として有名だったはずなのに、島内どこにもその姿を見かけません。どこに行ったんだろう?と探してみると、ようやく港の桟橋の下に何かを狙っている猫の姿を発見しました。

島に上陸した桟橋の下に猫がいた

何をしているのだろう?と観察していると、やがて抜き足差し足で動き出し、港に近づいてきた水鳥に一気に襲いかかりました。自分の身体ほどもある大きさの水鳥をガッチリと爪でホールドし、細い首に嚙みついて一瞬で仕留めてしまうその姿はまさしくハンターそのものでした。

獲った水鳥を意気揚々と持っていく
水鳥を獲った姿をみてもう1匹が飛び出してきた

なかなか衝撃的なコンタクトでしたが、この沖島では島民たちからエサをもらっているわけではなく、猫たちは鳥や魚を自ら狩りしながら自給自足で暮らしているのです。そして、もっと猫が多かった頃にはこの島という限られた環境は、恐らくは飢えと隣り合わせな暮らしだったことは想像に難くありません。

無責任な観光客の未必な動物虐待

冒頭に某写真家の影響と書きましたが、この島には数多くの観光客が島で暮らす猫の姿を見たいとやってきていました。中にはキャットフードを持ち込んだり、その場そのとき限りで猫を可愛がる人々もたくさんいました。観光客は主に夏場にやってきますから、そこで栄養状態のよくなった猫たちは繁殖することになります。

避妊去勢手術のしていない猫たちは、2ヶ月程度で5-10匹ほどの子猫を生みます。しかし、その大半は厳しい島の環境では生き残れず、また観光客の減る冬場にはエサも獲れずに数年で死んでいくことになります。この沖島に限らず、野外で暮らす猫たちの厳しい生態は映える写真を狙う人々の目には写りません。多くの無知な観光客の行動が、不幸な猫たちの望まぬ繁殖の原因となっている現実に、もっと気付いてもらいたいです。

コロナ禍を機に猫がいなくなった沖島

実はこの沖島では、コロナ禍に猫たちを持ち出したとされる事件がネットニュースを中心に騒ぎになっていた経緯があります。この持ち出した人たちは保護団体なのか真偽は定かではありませんが、緊急事態宣言で観光客が来なくなった島では遠からず猫たちは生きていけない状況だったことでしょう。

むしろ、この猫がいなくなった島の様子を確認したかったのが、沖島にやってきた理由です。自動車のない静寂が支配する沖島では、水音とともにたくさんの鳥のさえずりや、虫の羽音が聴こえるようになっていました。そう、捕食者としての猫の狩猟圧が減少したことで、この島には多様な生物の姿が戻ってきていたのです。

猫がいなくなれば生き物が喜ぶ

島猫ののんびりとした姿は魅力的ですが、その裏には壮絶とも言える暮らしぶりがあります。そして飢えをしのぐために鳥や虫、ときには共食いまでするのが肉食獣としての猫の本能です。一方で愛玩動物として改良されてきた猫たちは、人間が適正な環境を整備すれば幸せに暮らすことも可能です。そこで、主に離島地域で捕獲された猫たちを都市部で馴致・譲渡するといった活動が始まってきています。

島の生物多様性保全にとって、猫の存在は鍵となる

現在は世界遺産に登録されているような離島が先行的に取組まれており、それ以外の離島でも対処が望まれる状況となってきています。企業を含めたグローバルな課題である生物多様性保全、島猫を持ち出して保護・譲渡することは離島を中心に自然環境を守る活動に結び付きます。沖島はそんな猫を通じた生物多様性保全の先行事例として、注目しています。

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