WBCに見る、日本と韓国の育成環境の違い
WBC日本代表の活躍が素晴らしいです。3月11日には、12年前の震災で父親と祖父母を亡くした佐々木朗希投手が先発し、見事にチェコ代表に勝利しました。そして、宇田川優希投手を挟んで同級生の宮城大弥投手に継投し、宮城投手は5イニングを完璧に封じ込める活躍でした。
佐々木朗希・宮城大弥の躍進を支えた地域
佐々木投手や宮城投手は、決して恵まれた環境で育ったわけではありません。本人たちの類まれなる努力はもちろんですが、相対的貧困と呼ばれる生活水準にありながら、野球を続けられる環境を地域や学校側が整備して、その才能が埋もれることなく花開く機会を創ってきた経緯もあります。
実際に甲子園常連校を中心にスポーツ特待生の制度を設け、学費免除や様々な物心サポートによって練習に打ち込める環境を整備しています。山本由伸投手の都城高校や宮城投手の興南高校など、地方強豪校にはある意味社会的階層を逆転する手段としてのスポーツが機能していると言えます。
少子化と学歴競争で弱体化した韓国
今回のWBCでは日本代表相手に13-4とコールド負け目前の完敗を喫した韓国代表、過去には名勝負を繰り広げてきた両チームの差がどうしてここまで広がってしまったのでしょうか?
1つの理由は日本以上に急速に進む少子化によって、野球人口の急減が挙げられます。2022年には0.78と合計特殊出生率の落ち込みが顕著であり、高校野球の球児はたった3,000人しかいません。日本の13万人に比べて40分の1の数では、有望な若者が出てくる絶対数も少ないでしょう。
もう1つは日本以上の学歴社会によって教育コストが非常に高くなっていることです。韓国の大学進学率は約70%と日本よりも高いにもかかわらず、失業率も50%以上あり、良い大学にいっても良い企業に入れるわけではありません。しかしこの厳しい経済雇用環境がさらに競争を激化させており、野球をはじめとしたスポーツに目を向ける子どもたちも減っています。
教育コストを下げなければ、才能は見出せない
現在、文科省は高等学校等就学支援制度の支給要件を緩めるとともに支援金額を引き上げるといった、「高校無償化」施策を進めています。都道府県によって条件は異なり、独自の上乗せ制度を設けている地域もあります。
またスポーツに限らず、徳島県神山町に開学する神山まるごと高専のように、高度IT人材に特化した教育機関でも民間企業からの出資によって学費無償の動きが広まるなど、地域において特徴的な動きが目立ってきています。
未来を担う前途有為な若者たちに機会を提供するとともに、そのための教育コストを劇的に下げることは国際競争力に直結します。このWBCを見て、改めて機会の平等を達成する格差是正のプロセスとして、教育に期待される希望は小さくないと感じました。