[ネタバレ]アメリカン・スナイパー
人間には3種類いる。羊か狼か、羊たちを守る犬(シープドッグ)か。
母国アメリカを守りたい、その一心から海軍特殊部隊SEALSに志願したクリス・カイルは、9.11で現実にアメリカが攻撃される事態を受けてイラク派兵に志願する。ザルカウィという、いま現在の脅威であるISILに繋がるテロリストの傘下にある“虐殺者”と対峙し、それを追い詰めていくクリス。
R15指定なので、割とエグいシーンも出てくる。公式記録で160人、本人曰く250人以上を殺害した伝説的スナイパーなので、どんどん撃ちまくる。女子供にも容赦ない。敵のオリンピックメダリストのスナイパーとの対決、高額の賞金首までかけられるようになったクリス。道端に佇む少年、米兵たちに夕食をご馳走する家族、そんな一般市民も武器を拾い米軍を攻撃してくる戦地で、葛藤しながらその銃口を向けるようになっていく。
アメリカ映画なので、敵にも敵の正義があるといった日本的描写はない。むしろそういったイデオロギーとは無関係に、戦場には明確な敵と味方が存在し、お互いにその命を奪い合うことが正しいという絶対的な価値観が支配する。とにかくイスラム原理主義の狼たちから仲間を、羊たちを守るために犬たちが戦っていくという勧善懲悪的な視点はシンプルで分かりやすい。
一方で、敵は内なるところにいる。戦地派遣の回数を重ねる毎に精神面と家庭はギクシャクしはじめ、戦争以外に心の拠りどころを見つけられない戦士の孤独は、仲間の犠牲や極限状態における緊張によってある日突然終わる。クリスの心理状態が大きく変化するシーンにおいては、常に犬が出てきてメタファー的に彼の、戦場の状況を表現する。吠えかかる犬、夜中に徘徊する犬、日常で子供にじゃれつく犬。
羊たちを守った犬は家族の元に戻り、平穏な生活を取り戻したはずだった。救いようのないラストに、事実は映画よりも奇なのだと感じるとともに、意図せず狼を創り出し、そこに犬を送り出して英雄視するような羊たちの風潮こそが、アメリカの病巣なのだろう。実際にこの映画は、ミシェル・オバマ大統領夫人まで巻き込んだ論争をアメリカ国内に引き起こしている。