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ロボットは人間の雇用を奪うのか

最近ベンチマーキングしているメタップス佐藤航陽さんのBlogが示唆に富んでいました。SPIKEという手数料無料のオンライン決済サービスを展開されています。


ロボットと所得格差と共有経済(シェアリングエコノミー)- 民間が作る新しいセーフティーネットの可能性

(引用)消費者が便利なサービスに流れていくのは当然ですが、機械に仕事を奪われてしまう側には死活問題です。こういったテクノロジーの発達によって短期的に所得が減少すると予想されているのは、先進国のミドルクラスと言われる層です。

上記グラフは1988年から2008年までの所得層ごとの収入増加率をまとめたものです。一部の富裕層の所得増加が全体のGDPを引き上げているため豊かになっていると思われがちですが、むしろ先進国の平均的な家庭では所得は増えていないどころか、減ってるようです。リーマン・ショック後の数字はこのグラフに含まれていないので、現在はミドルクラスの所得増加率はさらに凹んでいるかもしれません。

そして、税金が貧困層にだけ使われていて自分達に使われていないということに不満を持った富裕層が独立して新たな自治体を運営する動きも話題になってます。当然、富裕層が消えた自治体の税収は激減し、そこから捻出される教育予算も減らされてしまうでしょう。(引用終わり)

テクノロジーの発展によって淘汰されてきた労働者

ロボット技術の進歩は、短期的には人間の雇用を奪います。恐らく自動運転が普及すれば、多くのバスやタクシー運転手は失業するでしょうし、最近人手不足が顕著なコンビニ・スーパーのレジ打ちや外食の注文なんかも自動化されるかもしれません。

これは歴史において繰り返されてきたことで、たとえば自動車という新技術が登場してきたときには、多くの馬車とその御者が失業しました。しかしその後、自動車による流通の広範囲化が起こることで経済取引の規模が広がり、我々の暮らしは飛躍的に豊かになるとともに、サービス業を中心に数多くの雇用が生まれました。

身近なところでは、今や首都圏などでは改札口で切符を切っている駅員さんはいません。自動改札が当たり前となり、Suicaなどの電子マネーが普及することによって、駅ナカビジネスやオンライン取引、セキュリティサービスといった新しい経済が発生して、我々の暮らしを豊かに便利にしています。

共有経済(シェアリングエコノミー)という考え方

このような急激に変化していく世の中において、短期的に不利益を被るであろう大多数の中流層はどのように対処していけば良いのでしょうか?1つは雇用不安をカバーするために、できるだけ消費を抑えるといったことが挙げられます。前出の佐藤さんのBlogでも、AirbnbZipcarなど、“シェア”を前提とした新しいビジネスが紹介されていますね。先日ご紹介したLyftというサービスもそうです。

物質的に飽和した現代社会において、家や自動車などの資産を持つ者がその余剰分を持たざる者にシェアしていくという考え方は、確かにコミュニティのセーフティネットとして機能するように思えます。一方でこの理想論に内在するのは、ある人は提供ばかりして、ある人は利用ばかりするという不公平感であったり、持たざる者は再分配の機会を得られないままではないかといった議論です。

この共有経済の概念は、地域通貨を流通させることで解決できるのではないかと言われてきました。しかし多くのコミュニティにおいて、地域通貨が機能していない理由というのは、まさにシステムとしては合理的でも人間の感情や関係性において非合理的な判断が勝るといったパラドックスにあるような気がします。

地域通貨を上手く回そうという試み

神奈川県相模原市の藤野地区は、全国でも数少ない地域通貨が普及しているエリアです。「萬」という通帳に地域コミュニティ内での善意のやり取りを記録していくことで、日本の昔ながらの“お互い様”の文化を可視化しているところが特徴的ですね。何かをしてあげたら「プラス萬」してもらったら「マイナス萬」を取引として記載していくことで、持つ者が持たざる者に貢献する地域共有経済が出来上がっています。

この藤野地区の場合、「プラス萬」が増えていくことが地域コミュニティに貢献しているという自尊心を煽ることに繋がる一方で、「マイナス萬」は何か自分もやらなければという義務感を生み出す作用もあるそうです。もちろん、これらの感情が行き過ぎると問題でしょうが、なんとなく顔見知り同士のなあなあで済ましていたことを取引として可視化する効果は大きそうですね。

ロボットを導入することで何が生まれるか

話をロボットに戻します。

今なぜロボットが注目を集めているかと言うと、高齢化に伴って拡大する医療介護といった福祉セクターにおいて大幅な人手不足が見込まれるからです。団塊世代という人口ピークが後期高齢者に突入する2020年代に、労働集約的な福祉な仕事はあまり所得の拡大が期待できない分野でもあります。また大都市の福祉を支えるために、地方の若い女性が流出することで消滅自治体が増えるといった話も記憶に新しいところです。

最近上場したサイバーダインというロボットスーツを開発している会社や、海外で大規模な資金調達に成功したWHILLという電動車イスを開発している会社は、まさに今後増大する福祉需要を見据えて成長に期待が持たれる分野です。一方でこれらのテクノロジーはまだまだ決して安いものではなく、個人がおいそれと100万円もするような車イスを買うことは難しいでしょう。また高齢者がいつ歩けなくなるか、いったいどれくらいの期間これらのテクノロジーを使うのかについても、不確定要素が多いです。

そこで共有経済の出番です。地域や血縁のコミュニティにおいて、これらのテクノロジーに“投資”することによって、リスクを分散しつつメリットを享受することができるようになります。ある高齢者がリハビリに必要になった際にはロボットスーツを利用する、ある家族に介護の負担が大きくなったらWHILLを活用してもらうといった互助的なやり取りが可能となるのです。

最先端のテクノロジーこそ共有経済を

これまで、最先端のテクノロジーは主に大企業や大学などの研究室で開発され、莫大な予算をつぎ込んで実用化されるというのが常識でした。それらは消費者の製品価格や税金という薄く広い匿名の資金調達によって支えられており、経済発展の余剰分を再投資することによって我々の生活を豊かに便利にする技術革新が興ってきました。

そして、いま日本において主力の輸出品目になりつつあるのは、クルマや機械といった製品ではなく、知的財産権という知識経済です。アメリカが開発した新製品を改良していって競争力を高める20世紀型キャッチアップ経済においては、製造業などでの単純労働者の雇用が重要でしたが、21世紀は新しいコンセプトをいち早く具現化していく研究開発プロセスこそが国際競争力となる時代なのです。

そして、この知識経済を支えるのは利害の一致した共有経済による“投資”です。自らの福祉に不安を持つ高齢者コミュニティがロボット技術の発展に期待する、食料の安全保障に関心のある消費者コミュニティが農業生産技術にコミットするといった、費用と便益の可視化による知識経済への集中投資こそが、日本の今後の国際競争力を左右するのだと思います。

匿名の資金調達から実名の資金調達へ、資本主義がさらに発展する可能性を共有経済に感じています。クラウドファンディングが“投資”となる、大企業がリスクキャピタルとして技術ベンチャーのパトロンとなる、この流れについて研究を進めていきます。


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