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東京から地方経済を立て直す方法

前回の投稿に引き続き、田舎が存在しない東京出身者として、東京を中心とした相対的視点で地域再生を考えてみます。

私は地域おこし協力隊という制度の経験者で、2011年から2年間の任期で岡山県美作市において活動していました。地域おこし協力隊とは、都市住民が過疎地域に移住して地域活性化やまちづくりに従事する制度で、当時は制度が始まってから2年目に当り、全体の隊員数も200名程度でした。そこからテレビドラマになったり書籍が出版されたり、徐々に認知度が上がっていき、今では1,000人を超える地域おこし協力隊が全国で活動しています。

1-2期の地域おこし協力隊はできたばかりの制度に乗っていきなりド田舎に移住してしまう人たちですから、イノベーション曲線(表紙)で言うところの、自分たちでフロンティアを切り拓いていこうという意識の強いイノベーター層が多かったように思います。そこからだんだんと就転職先の1つとして認知されるようになり、現在ではアーリーアダプター層が増えているように感じます。

イノベーションは“キャズム”を超えなければ興らない

それでも「地域おこし協力隊」という制度や隊員の存在を知っている人は、まだまだ多くないのが現実です。実際に地域おこし協力隊を導入したいと考える自治体はうなぎ上りで増加していますが、一方でそこに応募する人たちはあまり増えておらず、現在では募集してもなかなか採用に苦労するケースが出てきています。

つまり、地域おこし協力隊という制度および田舎に移住するというトレンドは、先取的に行動するアーリーアダプター層までは一巡していると考えられます。田舎暮らしブームからさらにマジョリティ層にライフスタイルとして普及していくためには、キャズムと呼ばれる断絶を超える、一般化を進めなければいけないタイミングに差し掛かっています。

そしてこのようなマジョリティ層は、最近ではマイルドヤンキーと呼ばれるような人たちです。SNSやネットを駆使して自ら情報を集めるアーリーアダプター層とは違い、受動的に物事を捉える傾向にある人たちで、主に都市圏の郊外などに住み職住近接で暮らしていることが多いです。

田舎暮らししたい人は増えている?

最近になって、安倍首相自ら本部長となって地域創生本部を設置するなどの動きが見られています。それに対応して、内閣府は田舎暮らしを望む人は3割を超えるといった調査結果を発表しており、来年度以降なんらかの政策や予算が制定されることになるでしょう。地域おこし協力隊のような制度は先行する政策として注目を集めています。

一方で地方への移住の際にネックとなることには、仕事があるか、医療機関へのアクセスが容易かといった要件が挙げられています。田舎には仕事がない、医療機関など生活インフラが整備されていないといった印象が強いのでしょう。先取的にリスクを取って移住しようと思えるアーリーアダプター層までならばあまり気にしない要件ですが、安定的な雇用や生活インフラを求めるマジョリティ層にとっては重要な要件と言えます。

地方に仕事がない、というウソ

それでは田舎に仕事がないかというと、そうではありません。冨山和彦さんの著書『なぜローカル経済から日本は甦るのか』に拠ると、日本のGDPの7割、雇用の8割は地域に密着したローカル経済によって支えられています。ローカル経済の大半は対面サービスが主体の第三次産業であり、医療・福祉・交通・宿泊・物流・飲食など、地域から離れて大規模効率化することが困難な業種です。規模の経済ではなく密度の経済が働くため、ICT活用や統廃合による労働生産性の向上が不可欠であると考えられます。

密度の経済においては、消費者となる住民が点在していてはビジネスが成り立ちません。そこで地方都市や郊外といったローカル経済の中心地帯で労働生産性の向上を図り、再び過疎地域に対してもサービスを提供していくような流れが考えられます。実際に路線バスなどでは、郊外でつくった効率的な交通モデルを過疎地域に応用していく事例が出てきています。

東京から地方経済を立て直す

東京が分かりやすいのは、東から西に行くにしたがって都心⇒郊外⇒田舎と様相が変わっていくことです。都心に住んでいるアーリーアダプター層に対して、奥多摩などの田舎暮らしの魅力を発信していきつつ、その間の郊外ゾーンに住んでいる数多くのマジョリティ層が働ける仕事を創る、そんなアプローチができるのではないでしょうか。

最近で言えば、都心で流行しているDIYやセルフリノベーションの流れに対して、奥多摩産の木材や二拠点居住といったライフスタイルを提案していくことによって、アーリーアダプター層の需要を喚起していきます。そういった家づくりや暮らしの多様化という要件に合わせたローカル経済のサービスを、郊外のマジョリティ層が仕事にできるような形で展開することが考えられます。

また、高度成長期以降に数多くつくられた多摩ニュータウンなどの新興住宅地についても、不動産流通の流動化を図っていくことでマイルドヤンキーに暮らしやすい郊外を創出できるでしょう。ローカル経済の立て直しのキーワードとなる、中小企業の事業継承や統廃合、女性や高齢者の労働参画、現役世代への低負担な生活インフラ更新といった施策も、東京の郊外こそがもっとも手の打ちやすいエリアなのだと考えています。

東京への一極集中のなんとかして、過疎地域を再生させなければならない!と鼻息荒く語るのは結構なんですが、その東京に住んでいる人たちの意識をなんとなく変えていくことが実は近道なのではないかと考えています。郊外のライフスタイル変化の先に、田舎暮らしの現実味が見えてくるのではないでしょうか。

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