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震災から10年経つということ

震災、といっても中越地震のことです。その存在を忘れていませんでしたか?中越地震のあった旧山古志村や小千谷市を訪問し、その10年後の姿を見てきました。

新潟県中越地震は2004年10月23日17:56に発生し、マグニチュード6.8、最大震度7を計測しました。死者68名、重軽傷者5,000名弱、住宅の全半壊約17,000棟となっています。阪神淡路大震災に比べて規模が大きかったのですが、過疎地域であったことと豪雪地帯のために建物が頑丈に造られていたということもあり、比較的被害が少なかったと言われています。

一方で土砂崩れや地割れといった地盤の変化によって、地形にはかなりの影響を与えています。また、この年は7月から10個もの台風が上陸した例年になく多雨の気象状況下になって、地すべりや土砂崩れが広範囲にわたって起こりました

水没した限界集落・旧木籠集落

旧山古志村(現長岡市)木籠集落は、震災発生当時24世帯67名が暮らしており、高齢化率が50%を超えていた限界集落でした。そこに土砂崩れが発生して集落を流れていた芋川がせき止められ、自然のダムのような形になって14世帯が水没するといった惨事となりました。

木籠集落の全景

正面が土砂崩れを起こした山、左側が土砂をかさ上げして造られた9棟の災害復旧住宅。右側の下に水没家屋の屋根が残っています。震災から3年後の2007年に14世帯32名の住民が帰村し、山古志木籠ふるさと会を結成して地域づくり活動を進めています。

旧木籠集落マップ

闘牛が復活し、アルパカが出現した超限界集落

旧木籠集落は住民が帰村しているとはいえ、2007年の帰村時に住民は半減し高齢化率も60%を超えるといった超限界集落となっています。現在ではさらに高齢化は進み、住民は徐々に減っている状況です。すでに路線バスは走っておらず、恐らく自動車の運転ができなくなったらこの土地には暮らせないのではないかという土地です。もちろん冬季には4-5mの積雪によって閉ざされます。

かといってこの集落が閉塞感に沈んでいるかといえば、まったくそんなことはありません。郷見庵という水没した村を一望できる共同売店には、昔話をしてくれるお年寄りが集まって井戸端会議をしており、時には冗談を飛ばしながら自分たちのつくった農作物や民芸品を嬉々として売っています。

さらに昭和40年代に廃れてしまった山古志の闘牛祭りが復活し、アルパカ牧場を開設するなど、限界集落という色眼鏡で訪れるとビックリするような地域おこしの展開が進められています。しかもそれらの資金はすべて地域住民の稼いだお金によって民間主導で進められています。自分たちの代で村を閉じることを決定して、むしろ吹っ切れたかのように自由に地域おこしを行なっているのです。

放棄した水田を錦鯉の養殖池として再利用。ソーラー自動給餌機によって手間も軽減

もともと有数の錦鯉の産地である山古志では、海外の富裕層が直接買い付けに来ます。1匹20-30万円もするような錦鯉もいるようです。これら水田オーナーは離村していますが、平地から通いながら養殖事業を行なっています。

1970年代に離村したにも関わらず、毎週のようにマルシェが開かれる廃村

山古志では昭和40-50年代に急速な人口減少が起こり、平地部や関東地方へと若者が流出していきました。山間の農山村では離村・廃村したところも存在していますが、そこは現在でも別荘のような形で住民に利用されており、もの悲しさはまったく感じられません

廃村・離村は悲しいことなのか?

このように、廃村・離村といった一見ネガティブな状況が起こっている現場を訪れてみると、意外なほどに悲壮感は存在せず、むしろ地縁血縁関係の軛から解放された人間の強さを垣間見ることができます。これまでは先祖代々の土地を守るとか墓を守るといった発想で、その土地に住民を縛り付けてきたある種のしがらみが、震災というきっかけによって一気に薄れていった結果が見られます。

土砂崩れや水害といったある意味しょうがない理由によって解放された住民たちは、それまで抑圧されてきた自由な発想を発揮できるようになり、変化が必然となった土地に対してそれらの発現が見られるようになるのです。人間は自然という圧倒的な存在に直面すると、必然的に変化を強いられるのかもしれません。そしてそのことが、私たちの社会を発展させていった原動力なのでしょう。

国交省による防災集団移転事業は、東日本大震災の被災地にも適用されています。また恐らく、広島県の豪雨災害による土砂崩れといった最近の脅威においても参考になってくるのではないかと思います。震災後10年経ったからこそ見えてくるもの、より多くの方々に知っていただきたいですね。


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